人間は、言葉を持ってしまったことにより、醜い動物となってしまった。言葉がなければ意思伝達が出来ないから、小難しいことも考えられないのだ。でも人間は賢く成長を遂げた。自分以外の人間に、優先順位をつけるようになった。それは決して表に出さないし、他人には明かさない事だが。どれだけ善人を装ったところで、順位をつけない人間はいないのだ。


勿論名前も例外ではない。悩んだ揚句、親友の方が上になってしまった。ただ、それだけのこと。


「名前。」


塾の授業の合間に、ぼうっとしていると、目の前に出雲が立っていた。いつにも増して、不機嫌だ。


「どうしたの?」
「あんた、どういうつもりよ。志摩のこと、好きじゃなくなったの?」


出雲は女たらしの志摩をあまり良く思ってはいなかったが、名前が絡むと話は変わる。出雲の中でも、志摩より名前の方が順位は上のようだ。


「………うん。」
「沈黙が長い!なんで素直に言わないの!」


え、それ、出雲ちゃんが言う?、と率直に思った。


「……いいの。」
「友達と志摩どっちが大事なのよ。」
「友達だよ?当たり前じゃない…」
「じゃあくよくよすんのやめなさいよ。決めたなら後悔しないで先に進みなさい。それが無理なら戻ってやり直しなさいよ。」


出雲の言葉は確かに名前の胸に響いた。分かってる。親友を裏切ることも、志摩を諦めることも、無理だ。


「お?喧嘩か?」


通路を挟んで右隣に座っていた燐は面白そうに首を突っ込んできた。その隣でしえみは慌てている。そんな二人を見て、名前は薄く笑みを浮かべた。


「違うよ。」
「なんだ、違うのか?つまんね。」


そう言葉を交わした名前を、斜め後ろの方から、志摩はじっと見つめていた。


―――


2011.09.04


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