結局泣き腫らして、授業には戻れなかった。雪男に謝らなければ、と考えながら、名前は置きっぱなしにした荷物を取りに教室に戻った。授業はとっくに終わっているから、誰もいないと思った。


「名前ちゃん!」


なんでいるの、と名前は顔を歪めた。教室には志摩一人。まさに待っていました、という感じだ。


「……」
「どないしたん?」


志摩は立ち上がり、教室の扉付近にいた名前に歩み寄る。床の軋む音が、やけに耳に響いた。


「…何でもない。」


志摩の横を通り過ぎ、荷物を取ろうとした。しかし右手が後ろに引っ張られ、足が止まった。見ると、右手が志摩に掴まれていた。触れる体温に、思わず赤面する。しかしすぐに親友の顔を思い出し、その手を振りほどいた。


「触らないで。」
「怒ってはるん?俺何かした?」
「……っ」


名前は悔しそうに下唇を噛んでいた。悔しい。私だって志摩が好き、と全身が訴えていた。


「怒ってないし、何でもないから。だから…、もう私に構わないで。」


酷く傷付いた表情。志摩には珍しい表情だった。本当は構ってほしい。一緒にいてほしい。でも親友を裏切るような真似は出来なかった。志摩のことも大好きだけど、親友だって負けてない。学校も寮も一緒。罪悪感を背負って、友達をやるのは無理だ。


私は自分の鞄を抱え、逃げるように教室から飛び出た。


―――


今更ながらこれ、志摩くんより勝呂の方があってる気がする

2011.09.03


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