韃靼人は踊る


新幹線のホームまで見送れば良かったと後悔した日もあった。しかしその度に思い出す。最初で最後の熱い夜のこと。次会う時は。そう言って別れたのだ。名前は三年で随分成長し、芸にも磨きがかかった。一人前にはまだ遠いが、舞台に立たせてもらえるようになったし、お客も増えた。街中で名前さんの舞大好きです、と言われることもあるほど。


本日の舞台を終え、拍手を貰いながら名前は考えていた。竜士は今何をしているのか。どんな場所でどんな友達と一緒にいるのか。竜士が何を考えているのか。拍手喝采の中、自分を誇れるようになった。


竜士、私舞妓になったで。





新幹線の車内放送が、京都到着を知らせた。胸には真新しい祓魔師のバッチ。新幹線の窓に映る自分を見た。京都を出た日から随分姿が変わった。ピアスの穴も増えたし、髪も染め、身長も伸びた。名前は自分だと分かってくれるだろうか。


帰宅途中の夜道。この階段を上がると名前の神社がある。竜士は意を決して、足を進めた。すると自分の記憶と重なる風景。神社の塀から飛び出した桜の木。月夜に舞い散る桜は、素晴らしかった。


こんな夜だ。名前は寝ているかもしれない。昔、まだ候補生だった時、任務で京都に帰った。しかし約束は約束。会いたくて仕方なかったのを我慢し、神社には近寄らなかった。今なら胸を張って帰れる。


境内は物静かだった。風に揺れて花弁が舞い散る。綺麗な夜桜だと感心した。だが竜士は自分の目を疑った。桜の木の下で、名前が踊っていた。息が出来ない。着物姿ではないし、化粧もしていない。しかしこの世でこれ以上綺麗な物はない。桜の花弁の雨の中、穏やかな表情で身体を動かす名前。なんて美しいのだろう。


瞬きをする暇もないほど、見つめ続けた。踊り終わったのか、名前は桜の幹に手を添えた。思わず竜士は拍手を送っていた。


「っ!?」


名前がこちらを向く。別れた頃より髪が伸びている。桜の花が彼女の髪に落ち、一種の飾りのようだ。


「…りゅう…じ…?」


じっと見つめた。出会った時と同じ、この距離。それから見つめ合うこの時間。今ではもどかしい。ここからでも分かる。名前は涙を流していた。弧を描いて綺麗に落ちていく。彼女の涙でさえ愛おしい。


「竜士!!」


勢い良く抱き着く名前。昔では考えられないほど、大声を上げて泣いていた。そんな彼女を力強く抱きしめる。昔より更に身長差を感じる。竜士竜士、と名前を呼び続ける名前。竜士も一筋の涙を流し、優しく囁いた。


「名前…、なったで、祓魔師。」
「わた、私もっ、なったで、舞妓!」


大好きだ、愛してると心が叫んでいる。二人は再会を果たした。舞い散る夜桜の下で、二人の想いは重なる。


―――


完結
意味分からん!
ただ、韃靼人の踊りが切なすぎていい曲なんですよ〜
それだけが言いたいお話
しかも三年後捏造w

2011.08.29


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