えー、また恋愛相談?


俺の祓魔塾の先生、奥村雪男。クラスで、いやクラス以外でもほとんどの女の子を虜にしとる。ええなあ。俺も女の子にちやほやされたいんや。塾でも杜山さんや出雲ちゃんにアドレス聞いても教えてくれへんし。教科書を立てて上から目だけを出し、奥村先生に羨望の眼差しを向けた。ええなあええなあ、先生俺にも少し分けてください。


「志摩くんっ」


おお!ついに俺にも春が!女の子特有の少し高い声が聞こえはった。誰やっ!こう、ふんわりとした雰囲気のかいらしい子を想像しとったのに。


「なんや名前かいな。なんやねん、志摩くんて。気持ち悪いな。」


まさか名前やとは思わんかったな。こいつは小学校の頃京都に越して来て、それからなんやずっと一緒におる。いわゆる幼なじみゆう奴やけど、全然かいらしくない。たまに…かいらしくなるけど。


「志摩、ケンカ売ってんの?買うよ?」
「売っとらんし。被害妄想やめてや。」


適当にあしらって、女の子ウォッチング続けよおもたのに、こいつ、邪魔や。早く帰ねや。


「志摩、相談あるの。昼一緒に食べよ。」


俺は頬杖ついたまま適当に返した。名前の相談なんて決まってるやん。恋愛相談や、恋愛相談。もうええ加減にしてくれや。俺が女の子大好きなように、こいつも男大好きなん。しかも皆ツリ目。なんや、俺はタイプやないてどんだけ主張したいん。もう分かっとりますよ。名前の目に俺は映らん。


「なんや、また男関係なん?」
「うん。また可愛い子紹介してあげるからさ。」


そもそもこの関係が始まったのは小学校卒業直前。名前は泣きながら俺のとこに来て、好きな人がおる、卒業したくない言うた。性格上、坊や子猫さんには相談出けへんかったらしく、溜め込んではった。最後の最後に俺に言えたはええけど、結局名前の失恋を隣で見てたんや。俺かて好きやったのに。


中学の頃は、名前からの呼び名はエロ魔神からエロ師匠に変わり、あいつはたびたび相談に来はった。成就も破局も間近で見ていて、辛いもんやった。せやけど、せっかく付きおうた男とも、一ヶ月もせえへんうちに別れてもうた。理由聞いたんや。だいたいの男とは、しょうもない事で喧嘩になるんやて。その原因は俺たちやった。あの頃ちょうど坊の寺が祟り寺いうて毛嫌いされよった。名前は東京から来よった子やったし、俺たち明陀の連中を周りと平等に接しておった。せやから、俺も坊も子猫さんも皆名前を大事な友人やと思とった。あいつもそうやったらしい。祟り寺の連中と戯れるな言われたら、散々好きや好きや言っとった男も、一瞬で別れを切り出しよったそうで。潔いて言うか、何て言うんやろな。


そんな名前に惚れたんは、間違いなくこの俺や。


また始まるんや。名前の恋が。終わるまで、見届けなあかん。


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