ねこねここねこ


「子猫はさ、」
「丸が抜けてはりますよ、名前さん。」
「…猫はさ、なんで祓魔師になろうと思ったの?」


もう色々抜けとりますよ、人の名前間違わんといてください、と内心文句を言うが。突然の真剣な話に子猫丸は背筋を伸ばした。隣では相変わらず猫じゃらしを左右に揺らしていた。足もぶらぶらと揺らしている。


「名前さん落ち着きないですよ?」
「そんなの、猫がいるからだよ。」


彼女の言う猫が自分のことなのかははっきりとは分からなかったが、彼の心臓を高鳴らせるには十分な言葉だった。


「僕には…明陀しかないんです。恩返しがしたい…。」
「…へえ。律儀だね、子猫丸は。」
「名前さんは?何のために祓魔師に?」
「…憧れの人がね、いたんだ。」


いた…?過去形になっていることに気付き、子猫丸は心配そうに彼女を覗き込んだ。するとぱっとこちらを向き、いつもの笑顔を見せた。そして縁側から立ち上がった。


「さて、そろそろ任務行こうかな。猫の相手もしてたいけど。」
「名前さん、猫じゃらし!」


立ち上がった彼女に慌てて声を掛ける。しかし振り向いて、猫じゃらしを掲げた。


「返してほしかったら取り返してみなさい?」


いつも余裕そうな彼女。子猫丸はすばしっこい名前から取り返すなんて無理だと悟り、動揺作戦でいくことにした。


「名前さん、好きです!」
「ほえ〜?」


明らかに動揺している。チャンスだと思い、彼女の手に思いっきり手を延ばした。しかしその手が直前で止まった。猫じゃらしとは逆の手に、掴まれていた。そこで初めて気まずい空気から逃げられないことに気付く。


「子猫丸、生意気じゃん。」
「手離してくださいよ。」
「なんで?私のこと好きなんでしょ?いいじゃない。」


墓穴を掘った。相手を動揺させようと言った告白は、むしろ自分の方が動揺している。失敗だった。しかし名前はにこにこしながら再び猫じゃらしを子猫丸の眼鏡の前で揺らした。


「知ってたよ。」
「ええ!?」
「知ってて何で私が猫に絡みに行ってたのか、分かる?」
「え…っと、」
「鈍感だな〜、子猫丸。」


そして手を離した。ぶらりと力無く垂れ下がる腕。名前に触れられた場所が熱い。


「名前さん、も…?」
「ふはは!猫じゃらし取り返せたら教えてあげるよ!」


ねこねここねこ〜、と楽しそうに言いながら名前は走り去って行った。ドクンドクンと激しく高鳴る心臓を感じながら、子猫丸は緩んだ顔を必死に隠していた。


―――


完結です
短っ!
これ短編でもいいんじゃないかな

2011.08.20


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