ねこ


勢いよく箸で米をかき集める志摩金造の隣で、三輪子猫丸は冷や汗をかきながらそれを見つめていた。その時、視界の左から右に緑が映った。


「ねこねここねこ〜。」


とても機嫌の良い声に子猫丸は視線を向けると、至極笑顔を浮かべる名前の姿があった。子猫丸は無意識のうちに頬を緩めた。


「名前さんも来てはったんですね。」


しかし彼女の手に、自分がなくしたと思い込んでいたお気に入りのマイ猫じゃらしが握られているのを発見し、慌てて取り返そうとした。それに気付き、名前はひょいと子猫丸の手から避ける。


「ちょ、名前さん、それ僕のやないですか?」
「え〜?私これ拾ったんだよ。」


にこにこと効果音がつきそうな笑顔を振り撒く。猫じゃらしに付いている鈴を指で遊ばせていた。子猫丸は、この人絶対気付いてはる、と確信した。


「なんやお前、来とったんか。」


ようやく気付いたのか、金造は食事をやめ、名前に視線を向けた。すると彼女は手の猫じゃらしをゆらゆらと揺らした。


「ねこねこが来るって噂が耳に入ったから。」


ふにゃりと笑う彼女に猫じゃらしが似合っていて、子猫丸は柄にもなく心臓を高鳴らせた。そして照れ隠しに言葉を残す。


「ええ加減ねこねこ言うんやめてください。」
「え〜?だってねこねこって名前可愛いじゃん。」


子猫丸の坊主頭を強めに撫でながら、名前は近距離で笑顔を見せた。あなたの方がかいらしいですよ、という子猫丸の本音は言葉となって出ることはなかった。


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