絶対泣かない



お弁当を持つ手が震えた。うわぁ、わたしってなんでこんなに小心者。ロングホームルームが終わって、昼休みになった途端女の子たちがみるみるうちにグループを作ってしまって、わたしはぼっち。なんだ、頑張ろうって思えたのに、初めから無理だよ。なんて思ったとき、窓際のショートカットの女の子が黒板の前を歩いていた。ドアに向かっている。やばいやばいこれ絶対チャンス!いくしかないっ!わたしはお弁当を持って慌てて駆け寄った。


「あああああのっ!ごご飯、一緒に……!」
「………」


彼女は冷めた表情でこちらを見た。こ、こわい。なんで一氏くんと言い、この学校にはこわい人が多いの…!こわすぎて最後まで言えなかった…


「……ええよ。」
「え。」
「ええよ。部活仲間おるけど。」
「ほ、ほんと?」
「なんで嘘つかなあかんの。ほな行くで。」


い、いやったー!内心ガッツポーズでバンザイだ。うれしい。なけなしの勇気を出してよかった。感動で泣きそう。わたしはこのショートカットの子について屋上に向かった。あれ、名前知らない。聞いてもいいのかなぁ…?


「あ、あの、お名前を聞いても、よろしいでしょうか…?」
「そないびくびくせんといてや。あたしは折原早苗。あんたは?関東から来たん?」
「あ、ううん!」
「違うん?」
「ちがっ、ど、吃りました。」
「自分、変な子やなぁ。」
「わわわたし、こないだ東京から来たの。えっと、弥栄舞です。」
「あ〜、あのめっさしけてた子か。」
「……はい。」
「ほな、よろしゅうね。」
「う、うんっ!早苗ちゃんって呼んでいい?」
「ちゃんはいらへんけどな。まぁ好きにしいや。」


早苗ちゃんが、わたしに向かって笑ってくれた。それだけですごくうれしい。中学時代にはなかった体験だ。ねぇ、凄いよ。わたし頑張ったよ。でも、褒めてくれる人はここにはいない。あの人の笑顔は頭にしか残っていないけど、目をつぶれば彼が褒めてくれた。


「着いたで。みんな気前ええやつやし、そない身構えんで大丈夫やで。」


無意識に肩に力が入っていたみたい。早苗ちゃんが肩をポンと叩いた。わたしは大きな深呼吸をしてから、屋上の金属製のドアを開けた早苗ちゃんに続いた。


「早苗ー。遅かったやん。」


く、蔵石くんがいる!なんで?隣には忍足くんと、一氏くん。目が合った瞬間に嫌そうな顔をされた。地べたに座って円を描くように三人がいた。そんな中一氏くんは容赦なくわたしを睨み上げていた。


「…小春はどないした。」
「え、」
「小春おらへんの?」


早苗ちゃんが尋ねながら一氏くんと蔵石くんの間の一人分スペースに座った。ちょっ、わたしどうするの?一氏くんのさっきの不機嫌オーラは一瞬で消え、早苗ちゃんと話し始めた。わ、わたしそっちのけですか…。まぁ当然だけど。


「弥栄さんもどうぞ?」


蔵石くんがわたしに声を掛けてくれた。わたしはそそくさと蔵石くんと忍足くんの間に座った。


「ありがとう、蔵石くん。」
「ぶっ」


左隣りで忍足くんが吹き出している。一氏くんがものすごく迷惑そうにツッコミを入れていた。どうしたんだろう、と彼を眺めていると、右隣から笑い声がした。


「はは、弥栄さん、俺白石やで?白石蔵ノ介。覚えた?」
「あ…ま間違えた?ごめんなさい!難しい名前だったから…」
「別にええけどな、蔵石でも。」


だから忍足くん吹き出しちゃったんだ。ごめんなさい。謝罪の意を篭めて、忍足くんの背中をさすってあげた。そして全力で白石くんに謝った。


「舞ちゃ〜ん!もう来とったん?探したんやで〜」
「小春ちゃん!?え、探した?わたしを?」
「おまえが一人やと思ったから小春がわざわざ1組からわざわざ呼びにいったんに、おまえはのこのこ早苗について先に来たんやろ。ほんま小春の手ぇ煩わせんなや。」


それは、さすがにへこんだ。だってわたし、知らなかったし。小春ちゃんは小春ちゃんの友達がいるから、頼っちゃダメだって思ったから勇気を出して早苗ちゃんに声をかけたのに。一氏くんはやっぱりすごいけど、彼の言葉には胸が痛い。わざわざって二回言わなくてもいいのに。


「ごめんね…」
「やぁ〜ねぇ〜、全然気にしてへんわ。一氏の言うことは無視してええから。ささ、ご飯食べましょか。」


そやなぁと忍足くんが雰囲気を和ませてくれて、助かった。どうして、こんなにもうまくいかないんだろう。どうして、一氏くんはこんなにもわたしを目の敵にするのかなぁ。泣きそうだ。でも絶対泣かないよ。約束したもんね、菊丸くん。


―――――――――――――


菊丸ビーム!!
これ一応ユウジ夢ですからね!
一応!←

2012.01.24


[ 4/56 ]

[] []