初・電信文書


早く大阪に帰りたくて、わたしは予約した夜行バスを変更した。暗い高速道を走り抜けるバスの中から、わたしは窓の外に視線を流した。


考えてみれば、予兆はあったのかもしれない。例えば、何だろう?いつも冷たい一氏くんがたまに優しかったり?なんだかんだ気にかけてくれたことを嬉しく感じたり?離れていく背中に寂しさを感じたり?一氏くんが認めてくれるたびにドキドキしたり?たまに頭に触れる手に、何故か切なくなったり?二人きりの時間がくすぐったかったり?


どれも正しいけど、どれも明確ではない。決定的なのは、一氏くんと早苗ちゃんが仲よさ気に話しているのを見るたびに、胸が痛んでいたこと。あの日、財前くんがわたしに言った日…確かあれは、白石くんの誕生日だった。


『俺は折原先輩にはユウジ先輩しかおらん思てます』


そんなことも言ってたっけ。一氏くんは早苗ちゃんのこと好きだったもんなぁ。今でも、やっぱり特別なのかな?わたしが入り込める隙間なんてない。入学して間もなく知ったこと。きっと今更、どうにもならないんだろうなぁ。


でも、ちゃんと分かってる。一氏くんはわたしのことが嫌いで、それでも好きになっちゃったわたしが悪い。どうにもならない現状に、考えれば考えるほど、自己嫌悪に陥っていく。そんなとき、ポケットの中の携帯が震えた。


(メールか…悠紀だ。)


弟からのメールは、とくにたいした用事ではなく。そういえば、早苗ちゃんたちに早めに帰ることになったと伝えていない。アドレス帳から早苗ちゃんの名前を探し、用件だけを打って、同じ内容を小春ちゃんにも送っておいた。夜11時。部活で疲れていたら寝ているかもしれないけど、もし明日見たとしてもわたしはまだバスの中だろうし。


(そういえば、一氏くん…)


この間のルーズリーフを手帳から取り出してみた。実はまだメールを送っていなかったりする。彼が何のためにわたしにアドレスを教えてくれたのかは分からないけど…。


(…メール、してみようかな)


暇だしね。と自分に言い訳。でも、寝てるかもしれない。迷惑かな?そんなことを考えながらも、ルーズリーフに書かれたメールアドレスを新規メール作成の宛先に打っていく。一文字一文字確認しながら、間違えないように。


(内容は…どうしよう)


とくに、用件はない。「今何してる?」とか?でも、あっさり「お前には関係あらへん」とか言われちゃうかも。うーん、やっぱり迷惑かな…?早苗ちゃんとはどんなメールをするんだろう。部活の話?小春ちゃんとは?お笑いの話?本当に、わたしって一氏くんとの共通点ないんだなぁ。携帯の画面ばっかり見つめて、具合悪くならないうちに再び窓の外を眺めた。真っ暗な夜空の向こうに、くっきりと輝く満月が見えた。ぼんやりと浮かぶ月は本当に綺麗で。


(一氏くんも、見てるかな)


自然と、口元が緩んでいて。窓に反射した自分を見て、慌てて直した。よし、これでいこう。でも無視されちゃったら悲しいな。明日も会いづらくなっちゃうし…。でも、いっか。


『弥栄です。
 まだ起きてますか?
 寝ていたらごめんなさい。
 とくに用事はないんだけど…
 月がとっても綺麗です。
 ぜひ、見てみてください。
 おやすみなさい。』


そういえば日本の偉人は『愛してる』を『月が綺麗ですね』と表したそうな。一氏くんは知ってるかな?知らないかな。「なんやねん、これ」とか言ってそう。想像してみるだけで心がほわんってあったかくなって。わたしは送信ボタンを押した。


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初メール!!
誰しも初々しい時期があったはずです
つーかメールでドキドキとかもう昔過ぎて覚えてないなあ
最初の方は総集編みたいになってるので「いつのだコレ」って思ったら読み返してみてくださいね

2012.04.16


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