元気ないの?


メアド教えて、って言われるのは初めてじゃなかった。昔は携帯持ってたし、クラスメートのアドレスだって入ってた。でもいつからか、アドレス帳に入ってる名前に恐怖感を抱いてしまって。べつにいじめられてた訳でもないのに、今となってはなんであんなに弱かったのかと思ってしまうくらい。自分でも、もう昔とは違うんだと胸を張って言えるくらいにはなった。


「ちょっと舞、聞いとる?」
「えっ、あ!うん!」
「せやから、メアド教えてって。」


学校帰りのタコ焼き屋さん。久しぶりに遠山くん達に会って、期末テスト前なのに流れで来ることになってしまった。タコ焼きを食べつつ雑談に花を咲かせる中で、突然自分にかかった声にびっくりした。「舞、メアド教えてよ」って言いながら早苗ちゃんは白い携帯を出した。


「俺にも教えてやー」
「やったら俺も。」
「アタシにもー!」


どさくさに紛れて忍足くんも白石くんも小春ちゃんも携帯を出してくれたんだけど、残念ながらわたしは持っていない。すると前方向かい側に座ってた財前くんがだるそうにタコ焼きを口に運びながら言った。


「っちゅーか、そもそも携帯持ってんすか?」


あ、とみんなが口を揃えて声をあげた。みんなの視線がわたしに集まるのは、やっぱり慣れない。


「持ってるんだけど、昔に解約しちゃって…」
「もう契約せえへんの?」


どうしよう。携帯の契約なんて、自分一人の問題じゃない。お母さんに頼んでみようか。確かに、自分からも携帯は欲しいと思える。みんなと、連絡を取り合いたい。


「た、頼んでみる…」
「せや!東京行っても寂しなくなるで!」
「え?弥栄先輩、東京行くんすか?」
「えぇーなぁー東京!コシマエおるやんコシマエ!ワイも行きたいわー!」


みんながばらばらに話すから、頭がついていかない。コシマエって誰!なんて考えている間に、隣で小春ちゃんと遠山くんが「せや、舞ちゃん中学は青学やったんやで!」「えっほんまに?コシマエと同じ学校やったん!えーなー!」なんて会話を繰り広げていた。そんな会話をよそに、今度は財前くんに話し掛けられた。


「東京行くんすか。お土産よろしくお願いしますわ。」
「え…あ、はい。」


財前くんには気まずさを感じてたけど、それは一方的だったみたい。そういえば、財前くんはものすごく一氏くんを応援していたけど、結局どうなったんだろう?至って普通すぎて、逆に変に緊張する。けど、財前くんはすぐにわたしから視線を外した。


「ユウジ先輩、最近メールしてこないっすね?スランプっすか?」
「んー?べつにメールする内容なくなったから…」
「前は事あるごとに謙也さんの愚痴送ってきよったのに?」
「あれやで、光。ユウくん最近元気あらへんの〜」
「ちょっ、小春ぅ!!」


元気ないんだ…。何となく、小春ちゃんがそんなことを言ってるの聞いたけど、そんなに元気ないとは思わなかった。何があったのか知らないけど、一氏くんはいつもの気が強くて、暴言はいても気にしないよな、我が道を行く一氏くんであってほしいなぁ、なんて浅ましいことを考えていた。


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なんで元気ないのか知らない(笑)

2012.04.07


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