友達の恋人


白石くんの後ろについて、行き着いたのは体育館の多目的室。会議室みたいに中央にテーブル、ホワイトボードだけが置いてある。でも、少し視線を外すと、床に段ボールが置いてあって、中にはこの間一氏くんと小春ちゃんがコントで使った衣装が入っていた。


「弥栄さん、単刀直入に聞くわ。ユウジ、早苗のこと好きなんやって?」


血の気が引いた。ばっ、と振り返ると、白石くんは壁に寄り掛かって、腕を組んでいた。真っすぐにわたしを見てる。何とも言えないような感情に襲われ、わたしは視線を落とした。


「…どうして、わたしに聞くの?」


本人に聞いたらいいじゃない、というわたしの考えは、口に出さずとも伝わった。白石くんは片手で髪をぐしゃっと握りながら、ずるずるとその場に座り込んだ。


「せやって、聞けへんもん…」


わたしが見てきた白石くんは、みんなに完璧とか聖書とか言われて、自分に自信を持った強い白石くんだった。早苗ちゃんはすごい。こんなにも、白石くんを変えてしまうなんて。だから、一氏くんも好きになったのかな…。そう思うと、胸がきりきり痛んだ。


「俺も早苗もユウジが大事な友達で、いつも早苗を支えてくれて、あいつの方が早苗んこと、よう理解しとるわ…」


痛々しい台詞だった。わたしはみんなの中学時代を知らないし、まだ一ヶ月ちょっとしか一緒にいない、浅い関係だけど。これだけは言える。


「…一氏くんの気持ちは、一氏くんにしか分からないと思う。」


うん、正論。だってわたしは財前くんに聞いただけだし、白石くんもきっと噂が耳に入っただけだろうし。


「でも、もし本当だとしても、一氏くんは二人の邪魔をする気はないんじゃないかな…」


確かに、一氏くんと早苗ちゃんは仲良いし…羨ましくなるくらい仲良いけど。でも、この間幸せそうな二人を見て、ちょっとだけ微笑んだ一氏くんを見た。わたしには分からないけど、邪魔をしようなんて考えてるとは思えない。


「それに…、一氏くんの気持ちは、一氏くんのものだから。白石くんが気にすることじゃないと思う。」


はっきりそう告げると、白石くんは顔を上げた。すごい驚いてる。え?わたし変なこと言った?すると、白石くんは薄い笑みを浮かべた。


「…おおきに。」
「え?あ、は、はい。どういたしまして…?」


しどろもどろで返事をすれば、今度はちゃんと笑った。そして立ち上がって、すごい真っすぐにわたしを見て、


「弥栄さん、変わったな。」
「えっ…」
「入学式ん時とはえらい違いやわ。ほんま、ユウジの罵倒のおかげかな?」


ドキン、と胸が鳴った。変わった?わたし、変われた?あぁ、でも確かに、前は意見も言えなくて…。それが、一氏くんのおかげ?


「ほんまはちょっと心配やったんや。ユウジは相変わらず酷いことばっかし弥栄さんに言うてたから、やんなってマネージャーやめてもうたりしたらどないしよう、とか。」
「えっ、そ、そんなことないよ。」
「おん。せやから安心した。中学ん時もユウジの言葉に傷付く女の子なんてぎょーさんおってな。みんな離れてった。でも弥栄さんはユウジの罵声をバネにして、もっともっと頑張ろうて前向きやろ?」


前向き…?そ、うなのかな…


「俺、弥栄さんのこと勘違いしとったわ。もっと、自信持ってええと思うで。もっと、自分の気持ちを言葉にしてええと思う。俺も早苗とユウジと話してみるわ。おおきにな。」


嬉しい、なんてそんな低次元な言葉じゃ表現できない。白石くんの言葉は絶大な力を誇った。わたしには、耐えられないくらい強くて。わたしの言葉で、誰かの役に立てたらって何度も思った。ねぇ、もうわたし、昔とは違うよ。今すぐにでも一氏くんのところに走って行きたかった。


「これからも、早苗と仲良くしたってや。」
「もちろん!白石くんも、ええと…、友達の恋人として、よろしくお願いします!」


はっ、と息を飲み、白石くんは言葉を失っていた。ん?と首を傾げると、また笑い出す。


「はは、おん。彼女の友達、として、よろしゅう。」


白石くんの笑顔を見て、早く仲直りをして、またみんなで笑い合ってほしいなって思えた。


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設定で書いた通り白石ぜんっぜん完璧じゃないw

2012.03.13


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