どういう?
グラウンド横の木々を、暖かい風が揺らしていた。もうすぐ梅雨に入るくせに、空は雲一つない快晴。なんて体育日和なんだろう。
「舞ー?どないしたん?」
「ん?なんもしてないよ。」
本日の体育は2クラス合同、男女わかれての体力測定。3組と4組の合同だった。男子の方はグラウンドの周りをぐるぐる走ってるから、おそらく持久走。女子はグラウンド内で短距離走。順番待ちの間、ぼーっと空を眺めながらぼんやりしていると、早苗ちゃんが隣に座り込んだ。
「最近元気ないんとちゃうん?」
「え、そうかな?」
「気のせいならええんやけど。」
一氏くんは凄い、と思うけど、早苗ちゃんだって負けてない。真っすぐで、強くって、それから一氏くんの想い人。
「…早苗ちゃん、いつ白石くんと付き合い始めたの?」
「唐突やね。中二のバレンタインやで。」
中二のバレンタイン、と声には出さずに脳内復唱。その頃、わたしは何をしてたんだろう。菊丸くんとも出会ってなくて、クラスの女の子にいいように使われて…。早苗ちゃんが隣にいる今、絶対繰り返したくはない過去だった。
「舞は?」
「え?」
「ほら、菊丸くん。好きなんやろ?話してや。」
そっか。大阪にも菊丸くんを知ってる人はいる。学校も違う自分の好きな人を友達が知ってるなんて、嬉しい。
「う、うん!菊丸くんね、初めて友達になってくれて…」
「へえ。」
早苗ちゃんも楽しげに聞いてくれて、憧れのガールズトーク。憧れたはずなのに…。ものすごく話したくない。菊丸くんの話、やだ。
「……」
「どうしたん?」
だって、話せば会いたくなる。東京に帰りたくなっちゃう。わたしはここで、大阪で楽しい生活を作れたのに。それを今更手放したり出来ないのに。菊丸くんだって欲しい。わたしって、なんて欲張りなんだろう。どっちかしか選べなかったら、わたしはどっちを手にして、どっちを捨てるんだろう。
「早苗ちゃん、」
「んー?」
「…わたしね、菊丸くんのこと好き。」
膝を抱えて体育座りをすると、視界にグラウンドの周りを走る忍足くんと一氏くんの姿が目に入った。忍足くんのTシャツを引っ張ってる一氏くん。なんだか微笑ましくて、口元が緩まった。
「でもね、みんなのことも大好きなんだ。」
「ほー。嬉しいこと言うてくれるなぁ。」
「…どっちかなんて、選べないよね。」
一氏くんは忍足くんに引っ張られた(と言うか引っ付いた)まま、わたしの視界から出て行った。はやく一周して来ないかなぁ、と微かにがっかりした。
「あんたはさぁ、菊丸くんのこと好きなんやろ?どこがどう好きなん?」
「えっ?ええと…優しいとこ、とか。」
「それ、どういう好き、なん?」
残念ながら、早苗ちゃんの言いたいことはよく分からなかった。どういう好き?どうもこうも、好きなんだよ?そう言おうとした時、早苗ちゃんの番が来て、ほな行ってくるわ、ってひらひら手を振りながら立ち上がった。
どういう好き、って、どういうことだろう…
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2012.03.08
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