大丈夫大丈夫大丈夫。


でも、予想外にも財前くんは何も言わず、普通に一緒にデパートの中の雑貨屋さんを巡った。これはどう、とか、それは微妙、とか、誕生日プレゼントにあうものをいろいろと物色している。わたしは誰かと買い物に来ることも、誰かを想って誕生日プレゼントを選ぶことも初めてで、始終そわそわしていた。結局これと言ったものは見付からなくて「しゃーないから健康グッズ買ったりますか」って財前くんが言って、二人でお金を出し合って2000円くらいのサポーターを買った。


「じゃあ、帰りましょか。」


普通。こわいくらいに何も言ってこない。住宅地の人通りの少ない道を二人で並んで歩く。昔送ってもらったとは言え、実際あんまり覚えてないし、やっぱりわたしにとっては初対面。並んで歩くだけでいっぱいいっぱいだったのに。わたしの予感は当たった。突然、財前くんは足を止めた。


「…弥栄先輩は、ユウジ先輩のこと好きなん?」


わたしも足を止め、財前くんの方に振り返った。かすれた息が声の代わりに出てきた。唇が少し震えているのが、自分でも分かる。違うよって、わたしが好きなのは菊丸くんだよって、そう言いたかったのに、出てこない。


「……ユウジ先輩はやめたってください。」


喉がカラカラで、心臓が早鐘を打っていて、もう何もかもがおかしい。財前くんが何を言いたいのかも分からない。そもそも、わたしは一氏くんに恋心を抱いてるわけでもないし、さっき会ったばっかりの財前くんに勝手に決めつけられて勝手に話を進められて。文句を言ってやりたかった。けどやっぱりわたしはそういうこと言えないし、何より胸がきりきりと痛んで返事ができる余裕もない。


「っちゅーか、あの人と折原先輩の邪魔はせんでください。」


やっと、言葉が出た。自分でも驚くくらい、弱々しくて震えた声。


「さ、早苗ちゃん…?」


だって早苗ちゃんには白石くんがいる。付き合ってるんでしょ?恋人同士なんでしょ?


「折原先輩が好きとか、白石部長が憎いとか、そんなんやないですけど。俺は折原先輩にはユウジ先輩しかおらん思てます。」
「……」
「あんたは知らんかもしれへんけど、中学のときは部長が原因で折原先輩いじめられとった時期があって、それをずっと支えてきたんはユウジ先輩なんすよ。実際白石部長と付き合えたのやってユウジ先輩のおかげやし。俺はあの二人にくっついてほしかった。」


知らないよ、そんなの。わたしには、関係ない。わたし、一度も一氏くんのことが好きだなんて言ってないのに。どうして聞いてもないのにぺらぺらとこうやって。あぁ、さっきわたしが二人を見ていたからか。きっと、苦しそうな表情をしていたんだろう。だから財前くんが心配しちゃったのかな。


「ユウジ先輩の折原先輩への想いはほんまに深いで。そこらのぽっと出の女なんかに」
「大丈夫。」


財前くんの言葉を遮り、そう告げた。もう分かったよ。一氏くんが早苗ちゃんをどれだけ大切に想っているのかも、財前くんがどれだけ先輩想いなのかも、分かったから。もうそれ以上、言わないで。大丈夫だから。二人の邪魔はしないから。でも、一氏くんに憧れているのも、いけないの?それさえも、許してくれないの?


「大丈夫……わたし、好きな人、いるから。」


大丈夫ってひたすら自分に言い聞かせて、でも何が大丈夫なのかさっぱり分からなくて。菊丸くんが好きなのは本当。本当のはずなのに、どうして。


「…そうすか。なら、ええですけど。」


財前くんは再び歩き始めた。立ち止まったままのわたしの横を通り過ぎ、抜かして行った。


一氏くんが早苗ちゃんのことを好きだなんて初めて知ったよ。白石くんと仲良くするのを見て、つらくないのかな?それでも想い続ける一氏くんを、やっぱりわたしは尊敬する。憧れる。かっこいいと思う。でも、ダメなんだね。そんな感情も持ってちゃいけないんだね。


変われたかと思ったのにな。わたしは結局大阪に来たって、意志の弱いただの弱虫に過ぎなかった。


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財前余計なことを…!
この設定も初っ端から決めてました

2012.02.22


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