感想欄


本日のしめに、部室のテーブルで部日誌を書いていると、最後まで残って自主練とコート整備をしていた白石くんたちと早苗ちゃんが戻ってきた。白石くんが代わりにボールのかごを持ってあげたのか、早苗ちゃんが笑顔でおおきにー!、と言っていて、すごくほほえましかった。


「あ、おつかれさま!白石くん、携帯ロッカーで鳴りっぱなしだったよ?」


部日誌を書いている間も、白石くんのロッカーから携帯のバイブレーションがずっと鳴っていて、正直うるさかった。そう告げると、白石くんは誰やろ、と言いながらロッカーを開け、携帯を手にした。


「な、なんやこれっ!」


白石くんの声にワイワイとみんなが集まっていく。わたしはテーブルについたまま遠目で彼らを眺めていた。白石くんの前から早苗ちゃんが、両脇から小春ちゃんと一氏くん、背後から忍足くん、小石川くんと石田くん(二人は部活で初めて知ったんだけど、小春ちゃんたちと一緒に全国に行ったチームなんだって。)が覗き込んでいる。って言うか、みんな早く着替えればいいのに…


「うわ…、なんやこの着信…」
「19回やて。こわッ!」


会話からして、白石くんの携帯にずっと電話がかかってきていたらしい。でもわたしはちょっとそれどころじゃなくて。部日誌の一番最後、感想欄が埋まらない。今日の部活を思い返しても、一氏くんの言葉しか出てこない。どうしようどうしようどうし


『白石いぃぃぃぃ〜!!』


突然の大声に思わず肩を揺らし、みんなの方を見れば、全員が耳を塞いでいた。白石くんの持っている携帯から声が漏れている。声、大きいな。それた意識を目の前に戻す。感想感想感想。う〜ん…


「舞っ着替え行こ!」


早苗ちゃんがみんなから離れてわたしの隣に来た。わたしも早苗ちゃんもまだジャージで、女子更衣室は教室棟にあるからそこまで行かなければならない。男子は部室で着替えるんだけど。そういう細々とした優遇がうらやましいです。わたしも着替えに行きたいんだけど、しかし感想が…


「ん?あと感想だけやん。」
「その感想が思い付かなくて…」


すると早苗ちゃんはわたしの持っていたシャープペンを取り、部日誌を自分の方に引き寄せた。そしてさらさらと綺麗な字で言葉を綴る。書いた言葉は、“白石の取り巻きがうるさかった”。


「え、そんなのでいいの?」
「やってオサムちゃんやで?舞はちょっとお堅すぎ。もっと気ぃ抜いてもええよ。」


早く慣れるために、部日誌の当番は今週一週間はわたし、それからは一日交代。土日の感想欄を見て、早苗ちゃんは言った。確かに、わたしが真面目に書いても先生からのコメントはすごく適当。早苗ちゃんからシャープペンを返してもらい、部日誌を自分の方に向けた。“白石の取り巻きがうるさかった”の下にペン先をつけると、微かに手が震える。


“一氏くんが優しかった”


か、顔熱い!パタンと日誌を閉じ、早苗ちゃんの方をうかがうと予想通りニヤニヤしていた。う、恥ずかしい。


「ほな、それ提出してはよ行こーや。」


書き終わった部日誌を手に、わたし達は部室を出た。


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2012.02.15


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