満場一致


「…と、言うわけで。」


白石くんと早苗ちゃんに背中を押され、一歩まえに出た。部室前で部活着に着替え終わったテニス部の皆さんが集合。顧問の先生がニコニコとわたしを見ていて、これ以上ないくらい緊張。


「部長、この子が俺ら満場一致推しの新マネージャー弥栄舞ちゃんです。」


白石くんがわたしを紹介してくれて、慌てて頭を下げた。何度も吃りながら名乗れば、部長は優しさの滲み出るような笑顔で、よろしゅうと言ってくれた。


「ほぉ、満場一致?」


先生はさぞ楽しげに白石くんに向き直った。それに対し白石くんはそのままオウム返し。はい、満場一致です、とにこやかに返した。


(あれ、でも満場一致って…)


わたしはちらりと、背後にいた一氏くんを盗み見た。暇そうにあくびをしている。ライブの準備とかで、あんまり寝てないのかな。でも、一瞬目が合ってすぐにわたしは前を向いた。顔が、頬が、カァって熱くなって、手の平で少しだけ触れた。


(満場一致、か…)


一氏くんが、少しずつ、わたしを認めてくれている気がする。ただの自意識過剰なのかもしれないけど。それでも、素直にうれしいと感じる。胸がどきどきと高鳴っているのは確か。これは昔、菊丸くんの隣にいたときと似ている感覚。でも、 なにかが、どこか少し、違っている気もする。うん、だってわたしはもともと極度の人見知りだから。知らない人と話すだけで、どきどきする。


「ほなら、部活始めよか。まずは筋トレやな。弥栄さんは折原に分からんこと聞いて、頑張ってや。」
「ははははい!」
「吃りすぎ。」


部長は半笑いで、わたしの頭にぽんと軽く手を載せ、すぐにコートに向かった。あ、頭触られた…!どきどき。やっぱり、わたしって極度の人見知りだ。


「舞、行くで。」
「はい!行きます!」


テニスコートに向かう白石くんたちと別れ、早苗ちゃんと部室に入った。昨日はあんまりちゃんと見なかったけど、テニス部の部室はロッカーそれぞれに名前がついていて、壁際にはベンチ、中央にはリビングにあるようなテーブル。そして奥の棚のトロフィー。一緒に早苗ちゃんとテーブルに座り、掃除道具の場所やらドリンク作りやらタオルの洗濯やらいろいろ説明してもらった。それから、洗濯や部室の鍵の当番を一日交代に決めた。わたしは中学の頃は雑用を押し付けられていたし、正直、出来ることだとは思った。でもやっぱり、問題は人付き合い。わたしにそれが務まるとは、到底思わない。


「シケたツラしてんなぁ。大丈夫やで、あたしも一緒なんやし。」


早苗ちゃんがそう言ってくれると、少しだけ自信が持てる。ダメだね、わたし絶対調子乗ってる。自重しなきゃ。


「…ただ、」
「うん?」
「冬の洗濯、ほんまつらいんや。せやから、寒なってきたら、一緒にやろう?」


早苗ちゃんはわたしに笑いかけた。でもそれはいつも見る楽しげなものではなく、少しつらそうで。早苗ちゃんのことはよく知らない。でもこれから知っていきたい。早苗ちゃんだけじゃなくて、小春ちゃんも白石くんも忍足くんも。それから一氏くんも。並んだロッカーの名前を一つずつ見ると、心がぽかぽかあたたかくなった。


―――――――――――――


新テニでついにユウジ登場しましたね
財前も一緒!

2012.02.09


[ 19/56 ]

[] []