98%後悔


早苗ちゃんの曇った表情には、確かにわたしはこたえたんだと思う。何となく気まずくて、わたしはテニス部なんて全然まったくこれっぽっちも興味なんてないから、早苗ちゃんとは友達になりたかった。でも無理だったのかな。頑張って自分に似合わないことしちゃったから、早苗ちゃんは目を合わせてくれなくなった。


夜、雨が降ったみたい。正直、学校に行きたくなくてしょうがない。でもお母さんは一人で頑張って働いてるから、心配かけたくない。重い身体を持ち上げ、家から出た。その瞬間に目に留まったのは、小春ちゃんの姿だった。自転車片手に、手を振っていた。家の鍵を閉め、玄関前の階段を下りて小春ちゃんに近付く。


「おはよう、舞ちゃん!」
「あ…うん、おはよう」
「なんや元気ないなぁ」
「う、うん。小春ちゃんどうしたの?」
「ん〜?一緒に学校行こ思てなぁ!自転車の後ろ、乗り!」


小春ちゃんは朝から元気で。当たり前か。でもわたしは小春ちゃんが来てくれたことがすごく嬉しくて、自転車の後ろに横乗りした。お尻が少し痛かった。


「ほな、行くで〜」


昨日の雨で濡れた道を、自転車が走っていく。モヤモヤした気持ちが晴れていく気がした。


「水溜まり通過やで〜」


シャーと水を弾く音がした。小春ちゃんはやっぱり楽しそうで、いつも笑ってられる彼が、関西人のノリがうらやましかった。


「…小春ちゃん、今日どうしたの?」
「えぇ〜?アタシら仮入期間終わったら朝練始まるし、したら舞ちゃんと学校行けへんやろぉ?せやから、やな。」


当然のことだ。みんなはテニス部で、わたしはテニス部じゃないんだから。


「……そっかぁ」
「舞ちゃん、蔵リンにマネージャー誘われたんやろ?なんで断ってしもたん?」
「………早苗ちゃんが、嫌そうだったから。」


言ってて、胸がずきんずきんした。でも本当のことだもん。マネージャーなんて、この内気なわたしが出来るわけがない。白石くんが誘ってくれたのはうれしかったけど。早苗ちゃんは、わたしが引き受けちゃうかもしれないって思ったのかな。


「せやなぁ…」


否定、してくれないんだ。


「……舞ちゃんは知らへん思うけど、テニス部、っちゅーか蔵リンは昔からほんま人気でな。早苗ちゃんつこて近付こうとしとったヤカラがいっぱいおって。」
「…え?」
「早苗ちゃんはミーハーでやり始めたことやないし、アタシらはほんまに感謝しとるんやけど。せやけどよう思わん女の子もたくさんおって、早苗ちゃん友達あんまおらへんのや。ぎょうさんいざこざもあってユウくんは女の子が嫌いになってしもたし、まぁせやからあんま信用されてへんのやろなぁ」


小春ちゃんの言葉を一つずつ追い掛けて、理解するのがやっと。カラカラと音を立てて自転車の車輪が回っていた。見慣れた景色が視界を流れる。あ、もうすぐ学校に着く。


「…ごめん、なさい。」
「舞ちゃん?」
「わたし、そんなの全然知らなくて…」


早苗ちゃんに、話し掛けなきゃよかった。頑張らなきゃよかった。わたしはわたしらしく、おとなしくしとけばよかった。変わりたい、なんて思わなきゃよかった。後悔ばかりが襲う中、縋り付くように菊丸くんのことを思い出した。


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小春がシリアスって似合わない…

2012.01.29


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