余計なお世話?


早苗ちゃんはすごく優しくて、あの日話し掛けてよかったって心底思う。平常授業が始まって二日たった。休み時間中に一人でいると、早苗ちゃんがわたしの席に来て話し掛けてくれたりして、学校がすごく楽しい。お昼も、小春ちゃんたちと一緒に食べれるし、でもやっぱり一氏くんはクラスもお昼も一緒で、いつも睨んでくるからこわい。なのに早苗ちゃんには普通だったから、きっと相当心を許せてるんだろうなぁって思った。早苗ちゃんもなんだかんだ一氏くんのことをすごく頼っているように見える。一氏くんはいいなぁ。わたしも早苗ちゃんに頼ってほしいな。…わたしは一氏くんとは違って頼りないけど。


「ユウジは中一からずっと同じクラスで、いつも一緒やったしな〜」
「そそそうなんだ」


休み時間に女の子と一緒にお手洗いに行くっていうことに憧れてた。それを初めて叶えたときに聞いてみると、早苗ちゃんは手を洗いながら答えてくれた。そして教室に戻るまでの廊下を一緒に歩いていると、1組のドアのところに白石くんの後ろ姿を見つけた。


「あ、白石くんだ」


指を差すと、早苗ちゃんは何故か悲しげな表情を見せた。白石くんのこと、嫌いなのかな?でも返ってきた答えは予想外すぎて


「あ、あのさ、あたし白石と付き合っとんねん。」
「えっ!」


白石くんと早苗ちゃんが?隣に並んで歩く姿を想像してみると、すごくお似合いだった。


「おっ大人だねぇ早苗ちゃん!」
「大人?舞は?好きな人とかおらへんの?」
「……いない、よ。」


今の間はなんだと自分でツッコミそうになった。菊丸くんへの想いが今でも健在かと聞かれると、素直に頷けない。菊丸くんだって、わたしのこと覚えてないかもしれないし。


とりあえず、早苗ちゃんと白石くんが付き合ってるって聞いて、心がほわんってあったかくなった。たまに廊下で喋っている二人を見れば、幸せそうだなぁってわたしまでうれしくなる。早苗ちゃんと白石くんなら、仲良くしていてほしいなぁって思ったから。だから勇気を出した。


「ささ早苗ちゃんっ!」


校舎の裏に早苗ちゃんが呼び出された。相手は5組の男の子だったらしいんだけど、これは告白しかないと思ったんだ。早苗ちゃんが告白されたの知ったら、きっと白石くん傷付くんじゃないかなって。だからわたしは空気が読めない振りをして、校舎裏にいた早苗ちゃんのもとまで走った。


「舞?」
「ああのねっ、白石くんが、探してたよ…!」
「ほんま?ちょおあたし行くわ。ごめん」


男の子にそう言って早苗ちゃんは校舎に戻って行った。その場に残されたわたしと男の子の間に不穏な空気が流れる。わたしは一回頭を下げ、校舎に戻ろうとしたんだけど。


「自分、折原の金魚のフンやろ?」
「え?」


男の子は真っすぐにわたしを見ていた。


「最低やな」


わたしの横を通り過ぎ、男の子は校舎に戻った。最低、って。その単語が耳にこびりついた。その時、バタンと大きな音が上から降ってきて。見上げると、階段の踊り場にある窓が閉められていた。そして一瞬見えたのが、一氏くんのバンダナだったから。


あたし、余計なことをしちゃったのかな…。もう、分からないよ。今まで押し付けられることしかなかったから、自ら何かするってことがなかったから、何をしていいのか、何をしたらダメなのか、分からない。今の、一氏くんも見てたんだろうな。よかれと思ってやったことは間違ってたのかもしれない。


「…最低、か。」


わたしは背中を校舎の壁につけ、その場にうずくまった。


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告白の邪魔ってすごい度胸

2012.01.25


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