いちご配色


いちご配色

「イリーナちゃーん!」

お店の前に立っているイリーナちゃんに大きく手を振ると、ぱあっと花を咲かせたように笑ったイリーナちゃんも大きく手を振り返してくれる。飛び跳ねるたびに揺れるツインテールが本当にすごくかわいい、抱き締めたい。アリーナいいな、あんなかわいい妹がいて!

「イリーナちゃんごめんね、仕事終わらなくて…待った?」
「ちょっとだけなんで大丈夫っす!名前さんお久しぶり〜!」
「ほんと久しぶり〜!そうそう、アリーナ、今日本部にいたよ。たぶん夜には帰るんじゃないかな」
「あんなカタブツ姉貴はいいんです!その話やめてください!」
「え〜アリーナ優しいじゃん」

優しくない!鼻息も荒くアリーナがいかに優しくないかを語り始めるイリーナちゃんを宥めながらお目当のお店に入る。少しだけ薄暗い、落ち着いた店内の入り口付近にはお目当のケーキがずらりと並んでいるから、私もイリーナちゃんも食い入るように見つめてしまった。宝石みたいに綺麗なケーキたちはどれもすごくおいしそう。

「あ〜私三つくらい食べるかも」
「三つ?!名前さん、それ確実に太るっすよ?!」
「そうなんだよね…そういえば昨日レノに太ったって言われたんだった...」
「まーた例の同僚っすか?そんな失礼なやつとりあえず殴ればいいんです殴れば!」

拳を構えてファイティングポーズをとるイリーナちゃんに思わず笑ってしまった。若いなあ、イリーナちゃん。レノが私を貶すことなんて日常茶飯事すぎて、お前太ったなくらいじゃもう特になんとも思わないよね。自分で言ってて悲しくなるけど…うわ、なんか思い出したらへこんだ…
明らかに悲しい顔をしてしまったのか、イリーナちゃんが 奮起するように握り拳を思いっきり上に伸ばす。キっと私を睨む凛々しい顔は、やっぱりアリーナにそっくりだった。

「名前さん!もう三つでも四つでも食べましょう!思いっきり食べて嫌なこと忘れましょ〜!」
「お、お〜!」



「私、思うんすけど」
「うん、どうしたの?このケーキおいしいよ〜食べてみて」
「えっ、あ、ありがとうございます…じゃ、なくて!さっきの失礼な同僚!」
「ん?ああ、レノね……忘れるんじゃなかったのイリーナちゃん…」

お皿に三つずつ乗った宝石みたいに綺麗なケーキで、レノのことなんか忘れるんじゃなかったのかねイリーナちゃん。それじゃあ蒸し返しちゃってるよ。
バツが悪そうにするイリーナちゃんに、慌ててヘラリと笑いかける。べ、別に気にしてないよ〜ぜんぜん気分を害したわけじゃないんだよ〜。わたし、別にレノのこと嫌いなわけじゃないし。日々いろんな暴言を吐かれてるけど、まあ今のところ別に心底嫌いになってはない。
怒ってないのが伝わったのか、イリーナちゃんが安心したように肩の力を抜いた。

「良かった〜名前さんまた落ち込んだかと思った」
「いやいや、慣れてるから平気」
「そんな慣れるくらいひどいこと言われてるんすか?!」
「えっ、うーん、ひどいっていうかまあ、弱いとかアホとかトロいとか太ったとか、あと…ひ、貧乳、とか…」

イリーナちゃんの動きがぴたりと止まった。フォークを口に咥えたまんま、ストップをかけられたかのように止まってしまった。そして、大きく見開かれた目がギュッと瞑ったのをきっかけにイリーナちゃんの顔がぐしゃりと歪む。あ、すっごく嫌そうな顔。

「なんなんですかそれ!ひっどいですね!セクハラで訴えたらどうですか?!」
「や、うちブラックだからたぶんむり」
「うううううう、じゃあ殴っちゃえ!気絶するまで殴り飛ばしちゃえ〜!」

むしろ私が殴ってやりたい!そうフォークを握りしめるイリーナちゃん、今ならレノを見たら飛び掛っちゃいそう。見ず知らずのかわいい女の子からいきなり殴りかかられるレノって絵的にちょっとおもしろいかも。レノ、どうするんだろう。殴り返す…なんてことさすがにしないだろうけど、拘束くらいはするんだろうなあ。イリーナちゃんって血の気多そうだから、冷静に話し合いとかできなさそうだし。
未だにレノのことを怒っているイリーナちゃんをどうどうとなだめる。どうどう、おいしいケーキを食べて落ち着いてイリーナちゃん。もやもやした顔のまんま勧められるままにケーキを口に運ぶイリーナちゃんは本当にかわいい。抱き締めたい。

「落ち着いた?」
「はい…落ち着いたついでにさっき言いかけたこと思い出しました。けっこう当たってるんじゃないかと思います」
「なになに?」
「そのレノって同僚、絶対名前さんのこと好きなんすよ」
「へっ?!」

落ち着きを取り戻したイリーナちゃんがわけ知り顔で頷いているけど、今度は私がストップをかけられたように固まって動けない。いやいやいや、え?なに、なんだって?レノが、レノが私を好き……?えっどこが…?好きだったら、書類ミスったとき思いっきり鼻で笑うとか牛乳飲んでるときに「涙ぐましい努力だぞ〜、と」とかニヤニヤしながら言ったりしなくない?これ、ぜんぜん好きじゃなくない?

「え、え〜〜〜イリーナちゃんそれあんま当たってないよ…」
「そうすか?そんだけチサさんにひどいこと言うのって、愛情の裏返しとかじゃないっすか?」
「からかってるだけだと思うよ、そういう人だもん」
「そうかな〜愛の予感がするんですけどね〜」
「あ、愛の予感って…!しないよ!」
「え〜つまんないな〜〜〜」

ため息を吐いたイリーナちゃんは、豪快にケーキを口の中に入れる。私もふわふわした頭を少しでもましにしたくて思いっきりケーキを口に頬張ったところで携帯が震えた。なんだろう、アリーナかな。今日イリーナちゃんとケーキ食べに行くの知ってるから合流したいのかな。まさか主任とかじゃ、ない…よね?わたしちゃんと仕事終わらせたよね?緊急招集だったら嫌だなあ、そう思いながらディスプレイを見ると、着信はまさかのレノからだった。
イリーナちゃんに断りを入れて席を立つ。薄暗い店内から外に出ると、日差しに目が眩んだ。

「もしもし、レノ?」
「お〜レノ様だぞ、と」

レノの声が近い。電話なんだから当たり前なんだけどなんだかすごく恥ずかしいっていうか、無駄に心臓がドキドキしてしまう。さっき、レノがわたしのことを好きかも、なんて言われた後だから余計に。

「なあ名前、今お前まだ社内にいるか?」
「えっ、今日もう終わりだから八番街で友達とケーキ食べてるけど…」
「なんだよ〜!おいルード、名前もう帰ってるってよ!」
「んん?え、ルードそこにいるの?どしたの?」
「あ〜、今日ルード賭けに負けたから一杯奢らせようとな…ま、仕事あっから酒じゃなくてカフェのコーヒーだけどな」
「そうなんだ、残念だなあ」
「ま、明日になればまた俺様と会えるんだから元気出せよ〜っと」
「違う!レノに会えなくて寂しいとかそういう意味じゃない!」
「お?寂しいのか?」
「ちっがう!もう!ルードによろしく言っといて!」
「ハイハイっと…おい、あんま食い過ぎんなよ」
「大丈夫だもん!レノのばか!もう切る!」
「お〜じゃあまた明日な」

携帯を耳から離しても、まだレノの笑い声が耳に残っている。熱に浮かされたような心持ちで席に戻ったら、イリーナちゃんが携帯と私の顔を交互に見て「愛の予感っすかね?」そうニヤリと笑ったから、慌てて首を横に振った。









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