じゃかじゃかじゃん





じゃかじゃかじゃん

「レノの部屋なんかかっこいい〜!」
「当たり前だろ、レノ様の部屋だぞ、と」
「絶対足の踏み場もない部屋だと思ってた」
「お前の中の俺のイメージなんなんだよ…おい、機材探してくっから適当に座って待ってろ」
「は〜い」

おとなしくしてろよ、そう念を押したレノが廊下の向こうに消えていったのを確認して、早速辺りを見回してみる。インテリアとか凝ってるっていうか、ふつうにすごくおしゃれな部屋だ。わたし絶対足の踏み場ないと思ってた。お酒の瓶とか掻き分けながら進まなきゃいけないと思ってたから思い過ごしでよかった…
ソファの横に置いてある間接照明の形が珍しくって、近寄ってよくよく見たら指紋一つない。レノ、意外に掃除好き?でも間接照明なんてそんなにベタベタ触るものでもないから、細かく掃除してるわけじゃない…のかな…掃除してるレノとか全然想像できない。あ、女の人が来た時に掃除とかしてもらってるのかな。それならすごく想像できる。

「おい、名前」
「うううううううわっ」
「おとなしくしてたんだろうな、と」

突然音もなく現れたレノは、私と間接照明を見て訝しげに眉を寄せる。身の潔白を証明するように両手を上げて必死に頷いたら、あまり納得はしてなさそうだけど信じてくれたみたいだ。鼻を鳴らして、レノはまた別の部屋に行ってしまう。なんだろう、機材なかったのかな。あれすんごく高い盗聴器だから失くしたら絶対主任怒る。
もし失くしてたらお給料何ヶ月もらえないのかなと計算してたら、戻ってきたレノが不意に私に何か放った。よく確認もせず受け取ったから最初はあまりの冷たさにびっくりしたけど、ただのミネラルウォーターの瓶だった。なにこれくれるの?飲んでいいの?レノはすでにもうなにか飲んでいて、私に向かって雑に手を振っただけだった。くれるってことなのかな…お礼を言うと、めんどくさそうに眉を寄せられた。蓋を開けると、ヒヤリとした空気を感じた。あ、よく冷えてておいしい。

「でもさあレノ、早く主任に連絡したほうがいいんじゃないの?」
「あ?どうせ本部戻んだからいらねーだろ、と」
「盗聴器失くしたんなら、早く謝ったほうがいいよ。そりゃあ主任怒るし給料から天引きだろうけど、たぶん生活費くらい残してくれるよ」
「何の話だよ…失くしてねーっての」
「えっ、なんだあったの!よかったね〜レノ」
「なんでちょっと水飲みにきただけで俺の生活費の心配までされなきゃいけねーんだよ…ほんっと名前はアホだよな〜」
「アホじゃない!」

心配したのにレノひどい!それに、だいたいレノが前の任務のときに、ちゃんと本部に戻さなかったのが今回の原因なのだ。確かターゲットがレノの家の近くに住んでて、本部で盗聴するより家のほうが近くていいってすごく主張してたっけ。でも絶対あれ、サボりたいからだよね。家だったら聞いてるだけであとは何しててもいいもんね。まあ、レノがサボろうがどうでもいいんだけど、使った機材は戻してほしい。わたし今日は調査資料まとめるだけだったのに…
一人だけさっさと飲み終わったレノが、早く機材運ぶぞ、と廊下の奥の部屋に入っていく。慌てて、さっきよりはだいぶ温くなった残りのお水を飲み干した。



「けっこう重いからな、本体は二人で運ぶぞ、と」
「は〜い」
「まずは細けぇもんから運ぶか…」

面倒そうに後ろ頭を掻きながら、レノが周辺機器を適当に袋に詰めていく。これ、こんな雑な感じの扱いでいいんだろうか。専用のケースとかあるんじゃないの…そう思って部屋の中を見渡してみたけど、それらしいものは見当たらなかった。まあ、本体よりはぜんぜん安いからいいのかな…
それより、たぶんここは物置として使ってるんだろうけど、物置なのにやけにスタイリッシュっていうかなんかちょっと引くくらいおしゃれ。こんな棚私だったら物置に置かない。レノって仕事にも美学あるくらいだから、いろいろこだわってるんだなあ。あとやっぱり埃一つない。

「レノの家、本当にきれいにしてるねぇ…」
「だから、レノ様の家だからだぞ、と…つーか名前も手伝え」
「あのさ、掃除してくれるお姉さんとか、いるんだよね?きっと」
「は?いねーよそんなもん」
「えっ?」
「自分で掃除くらいやるぞ、と…まあ、あんま家帰ってねぇからそもそも汚れねーけどな」
「えー、意外」
「つーか、家に女あげたことねぇわ」
「えええ!うそ!」
「一晩だけの女とか、わざわざ家に連れてこねぇだろ」

機械の部品をまじまじと眺めながら、顔も上げずに、ものすごく当たり前みたいにレノは言うけどそういうものなんだろうか。じゃあシスネとか、遊びに来たりしないんだろうか。んん、待って、そういうことだったら、もしかして、もしかすると。

「あの、レノの家に初めて入った女、わたし?」

レノが赤い髪を揺らして振り返る。少し驚いたように目を見張っていたけど、すぐにいつものニヤニヤ笑いを浮かべ出す。それを見ても、わたしはなぜだかあんまり困ったりしなかった。こわごわと、ドキドキがごちゃまぜになったような感覚を押さえつけるように、手を握り締める。

「そうだな、名前が初めてかもしんねぇ…嬉しいのか?」

嬉しい?これは、嬉しいのかな?嬉しいっていうよりはもっと、ストンと何かが落ちたような感じなんだけどな。まあ、でも、一番乗りって嬉しいものだよね。自然と浮かんでくる笑顔のまま頷くと、レノのニヤニヤ笑いが一層深くなる。

「ま、名前を女としてカウントした場合はな、と」

握りしめていた手で、レノの背中を思いっきりぶん殴った。











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