春だと思った


「あっセンパイだ〜!センパイ〜!」
「あっほんとだつむぎ先輩〜!」

珍しく天気が良かったから、何の気なしに外に出ると後輩二人が飛び跳ねながら手を振っているので和んだ。今日もわりと散々な日ではあったけど、なんかもういいかと思えるくらい和んだ。俺なんかに会ってあんなに嬉しそうにしてくれるなんて。純粋にとても嬉しい。ぴょんぴょんと近寄ってきた二人が同じタイミングで話し出して、何を言っているのか全くわからないけどとにかくかわいいなあ。和む。

「センパイ!センパイも思うよな〜?名前はちょっと前までなんかきもちわるい色してたな〜?」
「ちょっと宙くん、よくわかんないけど絶対そんな変な色してないってば!ね、つむぎ先輩!」
「してた〜!だって宙は名前を見かけるたびに、あの子はどうしたんだろうな〜って思ってました!ね〜そうだよなセンパイ!」
「えっ心配してくれてたの?」

よくよく聞いてみたら全く和めるような状況じゃなかった。すがりつくように二人から見つめられて、思わずたじろいでしまう。俺は何を期待されて…?どういう返事をすれば正解になる…?

「あの〜、話がまったく見えないのでよくわかりませんが、二人とも仲良くしましょう…?」
「宙は仲良くしようとしてます〜でも名前がおこります」
「だってつむぎ先輩!宙くん、前はきもちわるい色だったけど最近いい色なっていきなり……あれ、わたし最近はいい色なの?」
「そうです、最近の名前はきれいな色で好きです〜」
「えっ、ありがとう!」
「へへ〜」
「あの、きもちわるいに過剰反応してごめんね」
「いいです、宙もわるかったです!ごめんなさい!」
「つむぎ先輩も、お騒がせしてごめんなさい」
「センパイごめんなさい」

嵐のような仲直りに追いつけず一人置いてけぼりを食らっていたけど、まるく収まったらしい二人にほっとする。
今度は笑顔で話し始めた内容を聞いていれば、ほとんど初対面らしいことがわかる。確かに、よくよく考えれば珍しい組み合わせかもしれない。あんずちゃんと一緒にいるのはよく見かけたけど、感覚の敏感な子だから転校したてで余裕のない名前ちゃんが苦手だったのかもしれない。最近は慣れてきたのか、それとも何か良いことでもあったのか良い方向に向かっているみたいだけど。

「つむぎ先輩」

ぼんやりと考えごとをしていると、遠慮がちにブレザーの裾を引っ張られる。名前ちゃんが不思議そうに俺を見上げていて、宙くんはいなくなっていた。い、いつの間に。

「あの、宙くんがパルクール見せてくれるって…良かったら行きませんか?」
「ああ、じゃあ一緒に行きましょう!宙くんはとっても身軽で、きっと見てて感心しちゃいますよ」
「わたしパルクールって初めて見ます!たのしみ〜」
「これからは頼めば喜んで見せてくれますよ、仲良くなったんでしょう?」
「はい!」

本当に嬉しそうにくしゃりと笑った名前ちゃんに、なんだかぎゅうと胸が苦しくなる。昔感じた苦しさとはまた違う、苦しい気もするし、なんとなく嬉しいような気もするし。

早く宙くんを追いかけたそうにしているのに、名前ちゃんの小さな手は、俺のブレザーの裾をまだちょんと握っている。自分のよくわからない感情は後で調べるとして、早くこの手を取ろう。きっと困ったようにはにかんでくれる。







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