共鳴する


俺は、俺の信じる人のために自分で納得してやったことだから悔いはない。道化や盲信と言われたらそうなんだろうけど、それでもあの時は正しいと思っていたし。だけどきっと、巻き込まれた人にとってはたまったものではない。たくさんの人を傷つけてしまった分、みんなを幸せにしたい。みんなが幸せになってほしい。

「つむぎ先輩〜、わたしよくこれくらいに帰るし、大丈夫ですよ?」

うち近いし、と隣を並ぶ俺をチラチラ振り返りながら歩く名前ちゃんは、どこからどう見ても危なっかしい。躓いて転びそうだなあ、と思った矢先に「うおう!」なんて野太い声が上がったから、前に傾きかけた肩を咄嗟に掴む。その薄い肩とさっきの野太い声がまったく一致しない。

「俺のことはいいから、前を見て歩いて下さいね…女の子がこんな夜に一人で帰るなんて感心しませんよ」
「そんなこと言ったら、つむぎ先輩だってこの後一人で帰るじゃないですか〜!心配です」
「心配って…俺は男だから大丈夫ですよ」
「つむぎ先輩きれいで優しいから気をつけないと」
「ええっそんなこと初めて言われました」
「そうなんですか?」

くりくりとした目をさらに大きくさせて大げさに驚いているけど、そもそもあんな男子校みたいなところでそんなこと言われていたらとてもまずいのでは。目が穏やかとか首が白いとか、俺の良いところを指折り数えてくれているけど、自分では想像もつかないことが出てきて照れるというよりおもしろい。手の甲の皮膚が薄そうで綺麗って、長所なんだろうか?

「あと、つむぎ先輩はなんといっても優しいですから!」

最後の指を折りたたんだ名前ちゃんは、自分のことのように嬉しそうに笑っている。

「別に俺は優しくないですよ」
「優しくなくないです、わたしはつむぎ先輩がいてくれて、あの、頑張れたときもあります」
「俺なんかじゃなくて、本当に優しい人は、きっと名前ちゃんの周りにもたくさんいると思いますよ」

不満そうに唇を尖らせた名前ちゃんは俺を置いて少し離れた角を先に曲がってしまう。街灯の下で頼りなく揺れる髪の毛が視界から消えて、女の子って難しいものだなあとついため息を吐いてしまう。
懐いてくれるのは嬉しいし、あの明るい声で呼ばれると自然に心が浮き立つ。だけど、俺なんかにくっついてないほうが彼女にとっては良いに決まってるのに。頻繁にアイドル活動しているわけでもないし、過去にみんなを引っ掻き回したから馴染めてもいないし。日々樹くんと仲が良いみたいだから、過去を知ればきっと名前ちゃんは自然とうまい具合に距離を取るだろう。

さっき名前ちゃんが曲がった角に差し掛かると、電信柱の影から制服をはみ出させて名前ちゃんが立っていた。いや、隠れていた?ぜんぜん隠れきれていないけど。

「あの〜、名前ちゃん?そんなところにひとりで立ってると危ないですよ?というか、名前ちゃんが不審者みたいになってますよ〜」
「つむぎ先輩元気がなかったので、驚かせて悩みを吹き飛ばそうと…見つけちゃだめですよ!」
「そんなこと言われてもあんなにわかりやすいのに無理ですよ」
「あ〜わたしもつむぎ先輩を励ましたかったな〜」

電信柱の影から出てきた名前ちゃんは、さっきよりも不満そうだった。再び俺の隣を歩きだす彼女は、違うところに隠れれば良かったとか、しゃがんでいれば良かったとか悔しそうにいう割には「ね、つむぎ先輩!」と笑顔で見上げてくる。ころころと表情が変わって、明るくて、がんばり屋で、俺なんかを慕ってくれて、この子がいない日常は前よりずっと静かそうだなあ。

「名前ちゃん、俺は、俺なんかじゃなくて名前ちゃんがずっと元気で笑っていてくれればいいなと思います、幸せになってほしいです」

本当に心の底からそう思っているのに、街灯の照らす彼女の顔はどこか不満そうだった。やっぱり女の子って難しい。







第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -