虹を探して


「あらなに名前ちゃん、その本」

休み時間に借りた本を読んでいると、いつのまにか嵐ちゃんが机の前に立っていた。頬に手を当てて目を丸くしてるけど、そんな表情をしてたって嵐ちゃんは今日もきれい。金糸みたいな髪の毛が、陽の光に当たって細かく煌めいている。

「これね、昨日図書室行ったとき借りたの。方角の話だよ」
「方角……?風水とかかしら?そういうの好きだった?」
「うーん…あんまり興味なかったけど、つむぎ先輩がお勧めしてくれたから読んでみてる」
「青葉先輩に?」

ますます訳がわからないというふうに目を丸くする嵐ちゃん。うん、私もクラスメイトが勧められた風水の本とかいきなり読み始めたら意味わからないと思う。Switchは今ほぼ活動してないから、プロデュース科としてつむぎ先輩と関わることもないし。「詳しく聞きたいわあ」と前の席に座って私の机に肘をついた嵐ちゃんの目は、本当のおんなのこみたいにキラキラと輝いている。

「そんなに大した話じゃないんだけど….」
「いいのよお、このむさ苦しい学校で少しでもかわいい話が聞きたいじゃない?」
「かわいいかなあ…」
「どうして青葉先輩と知り合ったのかしら?」
「うん、あのね」

日々樹先輩のおつかいから、順を追って話す。
そんなにおもしろい話ではないと思うけど、嵐ちゃんは興味深そうに聞いてくれて、たまに「あらあ!」と口に手を当てて驚いていた。どんな仕草をしててもやっぱりすごくきれいだなあ、嵐ちゃんは。いいなあ。

嵐ちゃんのお顔にみとれていると、ものすごくいつも通りに「で、そこから恋が始まったのかしら?」って聞いてきたから椅子ごとひっくり返るかと思った。いやそんな、おでん始まりましたか?みたいに聞かれても…。えっ、どこに恋の要素が…?最終的に方角の話に落ち着いたのに?

「恋……?えっ、恋?恋って…どこらへんに…?」
「そんなに驚くこと言った?」
「びっくりしたよ!ど、どこからそんな発想が…」
「あら、だってそんなつまらなさそうな本真剣に読んじゃってるし、青葉先輩のこと知りたいのかなって」
「ちがうよ!これはオススメされたからであってつむぎ先輩ってどんなことに興味あるんだろう?とか思ってな……ハッ!」
「あら、やっぱりそうなんじゃない」
「ちがう!違うからね嵐ちゃん!」

悪戯っぽく唇の端を上げて顔を近づけてきた嵐ちゃんは、やっぱりすごい綺麗なんだけど私で遊ぼうという魂胆が見え見えだ。普段の何事にもクールな嵐ちゃんに戻って欲しい…!本当に好きとか嫌いとかじゃなくて人間的な興味というか、つむぎ先輩ってどういう人なんだろうなあっていう…あれ……これ、好きとどう違うの…?

「あらあら?噂をすれば、あれ青葉先輩じゃない?」
「ええええっ!」

嵐ちゃんが教室の入り口のほうを指差す。つむぎ先輩とみかちゃんが楽しそうに喋っていたけど、意外な組み合わせにちょっとびっくりする。嵐ちゃん以外とはちょっと緊張しちゃうみかちゃんが、あんなに笑顔で…

「あの二人って仲良いんだね?」
「それはヤキモチかしら?」
「ち、ちがうって!だいたいみかちゃん男の子だし!そりゃあ私より断然綺麗だけども!」
「名前ちゃんだってかわいいわよ……でも、そうね、あの二人もなかなかややこしいわよね」
「えっややこしいの?あんなに仲良しなのに?」
「まあ、みかちゃんには直接関係ないんだけど昔いろいろあったらしいわ〜」

ほんとめんどくさい学校よね〜、と興醒めしたようにため息を吐いた嵐ちゃんは唐突に、職員室に行ってくると教室を出て行ってしまった。絶対椚先生に会いに行ったんだな…。もうちょっと昔のことを聞きたかったけど、椚先生に会いに行くのを引き止めると怒るからな…美人が怒ると怖いのはもう学んだことだ。

急に手持ち無沙汰になって、借りた本に目を落とすけど内容がぜんぜん頭に入ってこない。目がすべる。みかちゃんとつむぎ先輩は仲が良いだけじゃないし、そういえば日々樹先輩ともあんまり仲良さそうって感じじゃなかった。まあ、日々樹先輩のことはよくわからないけど。

本当にこのアイドル科はややこしい。内容の入ってこない本を閉じて、そっとまだみかちゃんと話しているつむぎ先輩を見る。笑うたびにふわふわの髪の毛が揺れて、メッシュが残像みたいに頭に残る。ふと、つむぎ先輩と目が合った。笑顔でひらひらと手を振ってくれるつむぎ先輩に、引っかかっていたものが少しだけ解けたような気がした。







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