シャムロックの手錠


「名字、おそよう〜」

出勤時間ぴったりに会社に飛び込むと、ちょうど朝礼がまさに始まろうとしているところだった。ゼエゼエと荒い息をなんとかかんとか落ち着けて、自分の机の前に座る。突っ伏したいけど、遅刻してきてそんな態度を取るほど大胆でもない。同僚が、珍しいね、と目配せをくれる。

上司の話を頭の片隅で聞きながら、パソコンに貼られたメモがわりの付箋を確認する。今日やってしまわなきゃいけない仕事はそうたくさんではない。ぜんぜん楽。落ち着いてきた息をを深く吐き出して安心していると、上司がニヤリと笑って私を見る。いい予感なんてぜんぜんしない。

「おそようだった名字は、今日入ってきた、バラエティの効果音付の仕事を回してあげよう」
「ええええええ、今日のことにはわけがありましてですね!」
「効果音付が好きだって前言ってただろ」
「す、好きですけど」
「そうか、3時間の大仕事だ、ちなみに会社としても良い仕事だ」
「さんじかん」

ハイ朝礼終わり〜となんともやる気のなさそうな号令だって、みんな慣れたもので各々の仕事に取り掛かる。きちんと切り替えのできる、みんなすごい大人たち。夢ノ咲の作曲専攻を出て、路頭に迷っていた私を拾ってくれた小さな音響会社。親切でおもしろいみんなが大好きだし役に立ちたいけど、一気に大変になってしまった仕事に頭を抱えた。同僚が笑いをこらえて親指を立てている。へし折ってやりたい。






やっととれたお昼休憩に、ヘッドホンを外して伸びをしているとお疲れ様、と同僚がコーヒーを机に置いてくれた。お礼を言って一口すするといつもより濃いめの味が脳をすっきりとさせてくれる。怒涛の午前中だった。

「名前が遅刻なんて珍しいね〜」
「いやいや遅刻じゃないから、間に合ってたから」
「ほぼ遅刻みたいなもんじゃん」
「余裕のギリギリセーフですう〜」
「なんかあったの?」
「いや、それがねえ」

朝起こったことを同僚に話すと、途端に目をキラキラと輝かせて少女漫画みたい!とはしゃぎだす。確かに出会いは少女漫画みたいではあったけど、必死に許しを請う男の子は少女漫画とはかけ離れていたように思う。ぶつかっただけで退学まで覚悟されたら、重すぎて恋どころじゃない。

「で、あんた付き合うの?」
「いや、なんでそういう話に?!高校生だよ?!」
「あんたも似たようなものでしょ」
「わたしは社会人!」
「そうだけど、その子が3年生ならそう歳も違わないし」
「一年生だったらどうすんの」
「とりあえず付き合えば?」
「犯罪者じゃん!」

やだよお、と頭を抱えるとこういう話ばかり耳ざとい上司が間に割って入ってくる。朝の出会いを散々美化されて、「犯罪者になる前にできるだけ仕事をおわらせてくれ」と締めくくられた。ひどすぎる。








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