おなかが減ったね


「ほ、ほくと…やっぱりわたしもう生きていく気力がない……むり…」
「お前そんなこと言って昨日うちのおはぎ3つも食べてただろう、大丈夫だ」

ちがうそういうことじゃない、もしかしたら体は健康かもしれないけど、私の心はもう使い終わった雑巾くらいボロボロなのなんで北斗はわかってくれないんだ。一昨日振られたばかりなんだからおはぎでも食べて気を紛らわせないと、それこそ本当に死んじゃうの、なんでわかってくれないの。ていうか、そんなに乙女心がわかってなくてアイドルとかできるの…?
幼馴染の北斗の家で、机に突っ伏してグズグズと泣き言を言っていたらお母さんが「名前ちゃん、おいも食べる?」と黄金色をしたさつまいもをくれたからありがとうございます!と受け取る。そら見たことかと言わんばかりに北斗が鼻を鳴らしたから、テーブルの下で足を蹴ったら睨まれた。

「うちの食費を圧迫する前に早く立ち直ってくれ」
「うん、ありがとう」
「気分転換にどこか行くとか」

おいもを千切っていた手を止める。振られてからとにかく悲しくて、寂しかったからずっと北斗の家に入り浸ってたけど。確かにこれ以上幼馴染とは言え、他人の家のエンゲル係数上げるのも申し訳ない。海、そう、海でも行ってみようかな。

「うん、明日学校終わったら海でも行ってみる」
「海?まさかお前……死ぬなよ?自殺とか…」
「しないよ!なにその想像」

わからんだろう、と至極真剣な表情で言い放った幼馴染の足を、またテーブルの下で蹴飛ばした。





学校の裏手に海があるなんて、考えようによっては贅沢だと思う。休み時間に来るのはちょっと無理だけど、学校帰りにこうして海に来れるのはやっぱり気分転換ちはちょうどいい。
ポツポツと国道沿いの街頭があかりを灯し始めている。夜というにはまだ早いけど、夕方というにはもう暗い。そういえばこんな時間に、ひとりきりで海に来たのは初めてだ。学校が早く終わったら友だち何人かと来ることもあるんだけど。夜の海は少しこわい。

一人きりになると、やっぱり振られる前の、楽しかった日常ばかり思い出す。隣のクラスの、サッカー部の男の子。かっこいいとか、美少年ではなかったけど、優しくて、面白いその子に会って話ができたら一日中幸せだった。きっともう前のようには笑ってくれないだろう。目の奥が熱い。

「やっぱり悲しかったんだなあ」

この砂浜を全速力で走ったっていいし、おもいきり叫んだって、寝転がって暴れたって、泣いたって、何したっていいからここでぜんぶ吹っ切ろう。明日から何事もなく笑って話しかけられるように、海にぜんぶ置いていこう。熱くなる目に力を入れる。潮の匂いが鼻をかすめた。







「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -