ヤバイ萌える



「はとり〜今ひま?」
「名前には暇そうに見える?」
「ううんぜんぜん」

さっきからシンクをピカピカに磨き上げているはとりは側から見ても忙しそうだし楽しそうなんだけど、なにもわたしがいるときに掃除しなくったって。お昼ご飯の片付けをしている時から変なスイッチが入ったっぽいはとりは、わたしを放ったらかしてずっと掃除をしている。はとりの台所って綺麗すぎて料理しづらいというか、磨かれすぎて逆に生活できないというか、人間って適度に汚れたところで生活したほうがいい気がするんだけど。

「はとりひま」
「アニメ見たら?」
「今なんにもやってないんだもん」
「借りに行ったら?」
「はとりも行く?」
「俺忙しいから」

はいはいそうですよねそう言うと思いました!シンクを磨き始めてから一瞬だって目が合わないはとりが行くわけないですよねごめんね!唇を尖らせて怒っているアピールなんてしたけどそもそも見てないからなんの意味もなかった。バカじゃないか。むなしい。
テーブルにぺたりと顔をつけて、すごく興味深そうに洗剤の効能を読んでいるはとりを眺める。ほんとめちゃくちゃ楽しそう…まあふだん好き勝手やってるように見えていろいろ大変だろうし……ストレスも人並みにはあるんだろうし…掃除くらいではとりが元気になるなら…

そのままなんとなくはとりを見ていると、はとりが腕まくりをしていることに気付いた。あまり着崩したりしないはとりだから、ふ〜んまあシンクの掃除本気でやると濡れるもんねくらいにしか思わなかったんだけど、なんとなく気にしているうちにドキドキしてきた。
いや、はとりの腕めちゃくちゃきれい。しなやかで白くて男だから筋肉もあって、えっわたしこんな腕にふだん抱き締められててなんで「ちょっとテレビ見にくいやめて」とか言えたんだろう……あたまおかしいんじゃないか…下がってきた袖を捲る手もかっこいいし、縛った髪の毛が首にかかるのを払うのもかっこいい。あ、でも髪の毛はおろして耳にかけてくれたほうがより萌える。

「はとり〜〜〜」
「なに?もうすぐ終わるからちょっと待ってて」
「掃除してていいから髪の毛おろして」
「え?」
「はとりが腕まくりしてるの見てとってもドキドキしたんだけど、髪の毛を耳にかける仕草もほしい」
「静かにしてると思ったら…邪魔になるからやだよ」
「暇なわたしに萌えを提供してほしい」
「掃除終わったらね」

ものすごくめんどくさそうにため息を吐くから、じゃあもうわたしが勝手に髪ゴムとっちゃうからね、とはとりの背後に回る。ちょっと、と言う声を無視して手を伸ばす。サラサラの髪の毛からするりと髪ゴムを抜き取ると、途端に広がって白い首筋に散らばる綺麗な亜麻色の髪の毛。でも自分でやっといてなんだけど、これは萌えっていうか…萌える〜!っていうよりほんとの本気のドキドキっていうかちょっとなんか…やらしいというか………

「は、はとりごめん…なんか…うん。あの、お詫びに髪の毛綺麗に結び直すからかがんで」
「いいよ、一時中断してあげる」

キュッと蛇口を閉める音。怪しくなってきた雲行きに戸惑っていると、にっこりと笑ったはとりが一歩わたしのほうに足を踏み出す。思わず後ずさるわたしを追い詰めるように距離を詰めてくるから、いくら広い台所といえどわたしはすぐに羽鳥と壁に挟まれることになった。両手を顔の横に置かれて逃げられない。こ、これはいわゆる…いわゆる……

「か、かべドン……」
「萌えを提供してほしいんだって?」
「いやそうだけどでもこれは萌えっていうか…どっちかというと恐怖というか」
「ここでキスでもしたら名前は萌えるの?」
「も、もえないからしなくていい!」
「俺の腕見て興奮したなら、キスでも興奮できるんじゃない?」
「言い方!」

はとりが覆いかぶさるようにして顔を寄せてくる。目の前には、少し開いた襟から鎖骨がチラチラと見えて本当に心臓に悪い。でも目を瞑ると、顔のいろんなところにはとりが唇を置いていく感触が鮮明になってそれはそれで心臓に悪い…目の下を軽く甘噛されて、びっくりして思わず目を瞑るととどめとばかりに舐められた。
おろした髪の毛がわたしの頬を撫でる。ものすごく意地悪そうな顔をしたはとりが、「掃除が終わったら相手してあげるから、ベッド行ってて」とわたしの背中を優しく押した。










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