キャンペーン中にて


body

☆ミ

彼女の薄い耳の感覚が自分の唇に残っていたのは、本当にわずかな間だけだった。小さくて薄くて、人体の一部とは思えないくらい熱くなったかわいい耳。だけど、あのお店から一歩外に出てしまえば、唇の熱だってヒヤリとする夜の空気で冷めてしまう。
いつものバーで桧山と情報を交換して、薄いワイングラスに口をつけたときに、なんとなくその感触を思い出した。もっと華奢だったし、もっと熱かったけど。

「あ、そういえばさ、俺彼女ができたんだ」

同じように自分のウイスキーグラスに口をつけていた桧山は、ほんの少しだけ動きを止めたけど、何事もなかったように琥珀色のウイスキーを味わうように飲み込んだ。グラスを揺らしながら横目で俺をじっと見る桧山の考えはまったくわからない。桧山ってほんと何考えてるのか読めないよなあ。

「その顔でか」
「…俺ってそんなにひどい顔してる?」
「いや、そんなに悪そうな顔する男とよく付き合おうと思ったな、という意味だ」
「悪そうな顔してた?」
「ああ。俺なら何がなんでも絶対に断る」

きっぱりと言い切った桧山に声を上げて笑ってしまう。名前ちゃんがもしこれくらいはっきり断ってたら、手を叩かれて少しだけムキになったとはいえ、あんなに強引には言わなかったかも。からかうとおもしろくてかわいいけど、嫌がる女の子を無理やりなんて趣味はまったくないし。

「まあ、羽鳥がようやく身を固めたんだ。次の一杯は奢ろう」
「いやいや、付き合ってみるだけだから。結婚みたいな言い方やめてくれる」

俺のことを一つずつ知っていって、彼女の目はどんなふうに変わっていくんだろう。熱に浮かされたような、柔らかい純粋な目をしたあの子が、俺の趣味のことまで知ったときどんな反応をするのか。自分の正体を明かしながら遊ぶなんて、いくら俺だってやったことない。どんな結末になるのか今からとても楽しみだけど、まずはゆっくり、優しく甘やかしてあげよう。彼女の反応はおもしろいし、可愛げがあって俺も楽しいし。
グラスに残っているワインを流し込む。喉のあたりがじわりと温かくなる。俺と話してるときの彼女ってこんな感じなんだろうか。いつもうっすら顔を赤くしているけど。いっしょにお酒なんて飲んだら沸騰してしまいそうだなあ、それはぜひ飲んでみたい。

「じゃあ桧山、シャンパンで乾杯でもしようか」
「今さらシャンパンを飲むのか」
「え〜いつ飲んだっておいしいじゃん」
「まあいいが…末長く幸せにな」
「だから結婚じゃないってば」








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