巻き込まれるでしょう


夜になっても星一つ見えないし、アスファルトは少しだけ湿っているけど傘がいるほどでもなかったし。オフィスビル群の灯りが星の代わりなんてロマンチックなこと到底思えないけど、どんよりした夜で、しかもこれから大して面白くもないパーティーに行かなければいけなくても、気分はそこまで悪くなかった。
自分の容姿が多少なりとも良いのは自覚してるし、どうしたら女の子が喜ぶのかもわかっててやってるけど、あそこまで反応してもらえると素直にかわいい。俺が首をかしげただけで死んじゃいそうに真っ赤になるし、手を握ったら固まっちゃうし。やりがいがあるというか。
あの頼りない声でもう一回俺の名前呼んでほしいなあ、と思っているとタイミングがいいのか悪いのか携帯が鳴る。画面を見ると予想どおりの神楽からで、耳に当てた瞬間「なんにもしてないよね?!」とキャンキャン吠えられた。開口一番がそれって、ひどくない?でも、名前ちゃんもおもしろくてかわいいけど、神楽だって負けてない。

「あんなにおもしろ…かわいい子独り占めするなんてずるくない?」

わざと煽るように言ってみれば、案の定さらに文句が飛んでくる。良い意味でわかりやすくて、そういうところがかわいい。

「ちょっと!何言ったわけ?こうなるから羽鳥に頼むの嫌だったんだけど」
「え〜自己紹介しただけだよ、大谷羽鳥ですって」
「自己紹介とかする意味がわかんない!」
「俺だって仲良くしたいし」
「僕の行く店に羽鳥が入り浸りそうで嫌!」
「名前ちゃんが仲良くするのはいいんだ?」
「べつに、それはどうでも…」
「へえ?」
「だから、ほんと変な勘ぐりやめてよね。昔からうちが使ってる花屋で、名前のセンスはこの辺りじゃまあまあってだけ」

ふうん。まあきっと本当なんだろうな。花屋で名前ちゃんに神楽の話を振ったときも、なにかある感じでもなかったし、神楽だって本当に何か思うところがあったら俺に頼んでこないだろうし。

「俺、名前ちゃん気に入っちゃった」
「趣味わっる…どうせおもちゃとしてでしょ」
「ひどいなあ、会った後までその子のこと考えてるの、名前ちゃんだけだよ」
「聞きたくないし心底どうでも良いから…まあいいや」

おもしろくなさそうな声で「ありがと」と聞こえた瞬間切れた通話にまた苦笑する。ああ、一方的に通話を切るなって文句言ってやろうも思ってたんだ。また忘れた。そういえば、もうずっと昔から言ってやろうと思ってて、毎回忘れてしまっている。それこそ心底どうでも良いことか。
明日、早速またあの花屋に行ってみようかな。彼女が俺に抱いたであろうイメージなんて簡単に想像がつくけど、そのイメージ通りに振舞ってさらに慌てさせてもかわいいんだろうな。逆に、俺ってこんなイメージなんだ?と残念がっても彼女はまた慌てるんだろう。明日が楽しみで、自然と口角が上がる。

パーティーは明日までの暇つぶしだ。適当な花屋で適当な花束でも買って、適当な女の子にあげて適当に楽しもう。
持っている傘で湿ったアスファルトをコツンと叩くと、まったくパッとしない、鈍い音が響いただけだった。








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テーマ「人外ファンタジー」
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