海 漫才でも


05
「この前、いっしょに帰ってた女の子だれ?」

部活終わりの山岳に会うなり、ものすごく気になっていたことをぜんぜん気にしてないふりをして聞いてみた。嫌なことははやく終わらせることができる…それがわたしの数少ないいいところだったはず…
山岳はキョトンと目を瞬かせたあと、あっけらかんと、知らない子だと答えるから安心とか呆れとかで体の力が抜けそうになった。なんでそんなこと聞くの、と、じいっとこっちを見てくる山岳の目が物語っている。言い訳も気まずさもなんにも含んでいない山岳の目を見て、この件があまりにあっけなく終わったことを悟った。本当にあっけない。私の悩んだ時間を返してほしい。

「え、え〜でも、すごく仲良さそうだった、よね…?」
「え〜そう?ていうか、見てたなら声かけてよ」
「悪いかなって…」
「なんで?」
「なんでって……や、なんとなく…」
「オレ、クリアしたゲームの話したかったのに」
「そうなの?じゃあ今聞かせてよ」
「もう別のやつ始めたからそれはいいや」

いいんだ。相変わらずの切り替えの早さに、感心すらする。この調子でわたしのことも切り替えられたらどうしようとか、正直思わないわけではない。うそ。思いまくっている。
山岳に、聞きたいことがたくさんある。でも、どれも形になって出てこない。なんでわたしと付き合ってるのとか、もっとかわいい女の子が山岳の前に現れたらその子と付き合って私のことはもういいやとか思うのかとか、私のどこが好きなのかとかそういうこと全部聞いてみたい。でも聞いたら聞いたでへこみそうだから聞けない。山岳だって困るだろうし、困ったらきっと拗ねて喧嘩になるし…だいたい山岳って、そういったちょっと面倒な話とかするとすぐに不機嫌になるし………私が悩んでること気付いてくれないし…あの女の子だって明らかに山岳が好きなのに気付かないしそれどころか覚えてもいないし!なんかだんだん腹立ってきた!

「あ〜〜〜もう!山岳のバカ!」
「えっ何急に」
「山岳のバーーーーカ」
「あのさあ、バカって言うほうがバカなんだからね」
「違うもん、私山岳よりいろいろ考えてるもん」

隣を歩く山岳に、軽く体当たりをしてみる。わわ、焦ったような声のわりにぜんぜんよろめいてないのがまた腹の立つところ。そういうちょっと男の子なところとか、女の子はぐっときちゃうんだからね!

「あっぶないなあ、なんなの」
「私最近寝れてないんだよね」
「え?あ、ああ、うん…そうなんだ?」
「山岳のせいだからね!」
「えっなんで?オレ、なんかしたの?」
「した!でも、もういい!」
「え、ええ?なに、なんの話?チサさん、もしかして怒ってるの?」
「真波山岳くん!」
「えっ、あ、うん?」
「わたしのこと好きですか?」

ポカンと開いた口のまま固まってしまった山岳を睨むと、慌てて首を縦に振ったから少しだけ気分がやわらいだ。こんなことでも嬉しいって思える安い彼女で良かったね!

「わたしは、山岳のことすっっっごく好きだからね」

はっ?素っ頓狂な声を上げて瞬きを繰り返す山岳の手をそっと掴んで、引っ張るようにして帰り道を歩く。そういえば、最近ちゃんと手の手入れもしてないから、ちょっとかさかさしているかも。でも、まだよく状況が飲み込めていなさそうな山岳は、気づかないかな。気付かないといいな。今日は家に帰ったらお気に入りのハンドクリームを塗って爪の手入れをして、ぐっすり寝よう。寝る前に、可愛い絵文字を使って、山岳にメールを送ろう。










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