さんがくと 助けて



「山岳待って!待って待って!タイム!」
「ええ、また?」
「私のキャラもうすぐ起き上がるから!待って!」
「そんなの待ってたら勝負にならないよ」
「ちょ、だめだってほんと待って待って」
「10連コンボ〜」
「わー!」

山岳が何やら複雑そうにボタンを押したあと、私のキャラはボコボコに殴り飛ばされ画面に点滅するLOSEの文字。いったい何度この画面を見たんだろうか。山岳、やっぱりゲーム強すぎ。
コンティニュー画面で迷わず再戦を選んだら、隣から非難の声があがった。もう飽きただの、練習にもならないだの散々な言われようだが山岳に一勝でもしなきゃ私の気が収まらない。

「ねえ、外行こうよ」
「だめ!私が勝つまでだめ!」
「チサちゃんに負けるとか逆に難しいんだけど…」
「言ったな?山岳言ったな?私の本気を見せてやる」
「も〜」

ぶうぶう言いながらもキャラ選択画面で一番得意なキャラを選ぶあたり容赦ない。早く外に行きたいからわざと負けるかも、という希望は早くも打ち砕かれてしまった。
どうしよう。私の得意なキャラを信じるべきか他のキャラに希望を託すべきか。しかし得意なキャラでも負けるのに新しいキャラではたして山岳に勝てるのか?どうしよう。
早々に決めた山岳は、暇そうに大口で欠伸をしている。自分の勝利を信じて疑っていない。勝機はきっとそこにあるんだ…!

「決まった」
「またそれ?絶対負けるよ」
「今度こそ負けない自信ある」
「その自信なんなんだよ……これ終わったら外行くからね」
「いいよ、でも勝ったらバカにしてごめんなさいってちゃんと謝ること」
「別に、バカになんてしてないよ」
「してた!弱いくせに俺に挑むなんて実力差がわかんないほど下手なのかな〜って顔してた!」
「してないよ!」
「焦ってるのあやしい」
「してないって!」
「ますますあやしい」
「自分の好きな女の子にそこまで思うわけないだろ!」
「え、」
「あ、」

山岳の、しまった!っていう顔が一瞬にして赤くなる。頬っぺたや見開かれた目元なんかも一気に色がついて、人間ってすごいななんて的はずれに思った私の顔も自分でわかるくらいには熱い。
山岳の言葉が頭の中をぐるぐる駆け巡って、なんだか脳まで熱くなってきたところに、今まで固まってた山岳が、「ほんとだよ」って小さな小さな声で言うのを聞いてしまったから胃までカッカしてくる。愛しいとか、かわいいとか、そういうのでいっぱいになって、抱き着きたくて腕を伸ばした瞬間今まで放っときっぱなしだったゲーム画面から、アーユーレディ?と促す音声が耳に飛び込んできた。
二人して、なんだか我に返ってゲーム画面を見る。まだ英語でなにやらブツブツ続けているのが聞こえる。そうか、スマホじゃないから勝手に消えたりしないよね…
お互いの選んだキャラがぴこぴこと点滅している。中途半端に伸ばした腕は、もう引っ込めるしかない。

「あー、とりあえず勝負しよっか…?」
「ね、勝負しよっか、手加減、してください」
「あー、うん、どうだろ、うん」
「終わったら外、行く?」

うん、決まり悪そうに呟いた山岳の声はさっきよりずっとずっと小さい。







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