まなみと 登校バス


(朝のバス停で列に並んでいるところ)



「ねーまなみー」
「……」
「ねー」
「……」
「まなみー」
「……」
「そのゲーム続きは私がやるって」
「……」
「携帯の充電切れちゃうから返してよー」
「……」
「まなみー」
「……」
「まなみさーん」
「……」
「まなみの自転車の名前なんだっけ?」
「ルック」

聞こえてるじゃん、と咎めるように言えば、まなみは少しバツが悪そうに携帯を返してくれた。自転車の話出すのはズルいとかブツブツ言ってたけど、人の携帯で何十分もゲームされてはたまらない。クリアできないところがあるってまなみに携帯渡したのは私なんだけど、まなみのゲーム好きを舐めてた。
普段の何倍も熱くなった携帯を摘みながら、まなみの叩き出したスコアを見る。恐怖すら感じる高得点。

「まなみゲーム上手すぎてこわい」
「ふつーだって」
「この得点はふつーじゃないよ」
「チサちゃんが邪魔しなかったらもっといけたんだけど」
「えっこわい」
「ふつー」
「とりあえず写真撮っとく」
「女子ってさあ、すぐ写真撮るよね」
「この得点は女子じゃなくても撮ると思うよ」
「大げさだなあ」
「今度まなみがゲームしてるとこ動画に撮りたい」
「ええ、おもしろくないよ」
「暴力的になりそう」
「なにそれ、ならないよ」
「くそっ!くそー!とか言わないの?」
「言わないけど、チサちゃん言うの?」
「たまに」
「こわー」

わざとらしく目をまんまるくしたまなみが、これまたわざとらしく私から距離を取ってバス待ちの列から離れる。売り言葉に買い言葉じゃないけど、空けられた分の距離だけ詰めてやろうと荷物を持ち直したちょうどその時、箱根学園行きのバスが視界に入った。
周りがざわざわし出したのに乗じて、まなみが空けた分だけ前に詰める。あっ!と目をまんまるくさせたまなみは、今度はきっとわざとなんかじゃない。

「まなみは最後尾に並び直してくださーい」
「えー入れてよー」
「私はこわい暴力的な女なので入れませーん」
「チサちゃんはヤサシイって」
「あのさ、棒読みにも程があるよね」
「全然棒読みじゃないから」
「入れてあげようと思ったけどやめた」
「やめないでよ」

私の前に割り入ろうとするまなみを必死に押し返していると、気付いたら、後ろに並んでいた生徒が私たちの横をすり抜けてバスへ乗っていく。けっこうたくさんいたはずの生徒は残り数人程しか残ってなくて、私もまなみも冗談じゃなく目をまんまるくさせていると、「バス、乗るんだったの?」と親切な女の子が私たち二人を列に加えてくれた。
ごめんなさい、すいません、と頭を下げて列に加わる。バスに乗り込む時、一部始終を見ていた運転手さんに「バス停では静かに並んでね」と苦笑気味に注意されて、二人で顔を見合わせて笑った。







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