暑中見舞い 御堂筋


「翔くん待って〜暑くて倒れるよ〜」
「何回目やそれ、いっそ倒れ」
「今度こそほんとだから!ほんとに倒れるからこれ!」
「そんだけ元気なら暫くは大丈夫やな」

ああ残念、そういうとチサは決まって「ひどい」と間延びした声でこたえる。こんなやりとりもう何度目だろうか。家で妹たちと待ってればいいのに「わたしも翔くんとアイス選びたい」と言い出して、無理やりコンビニまでをひっついてきた。チサは優柔不断なところがあって、コンビニなんか行くとそれはもう長い。だから置いて行きたかったのに、アイス食べたいなんて言わなきゃ良かった。
後ろを振り返ると、眩しい程に真っ白なチサがよろよろとついてくる。

「白すぎていっそキモい」
「あ、翔くんは今世界中の女の子にケンカ売ったからねそれ」
「売ってへんわ、キモいのはチサだけや」
「あ!ねえ、最後のとこもう一回言って」
「はあ?」
「最後のとこ!」
「キモいのはチサだけや」
「キモいはいらない!」
「チサだけや?」
「う、うわあ、なんか照れる」
「阿呆か」

そんなつもりで言ったんちゃうわ、という弁解もたぶん聞いていない。このクソ暑い中、一人で嬉しそうにはしゃいでいる。さっきまで暑い暑いとゾンビのようにしてたのに、この変わり身の早さ。

「翔くんなんのアイス買うか決めた?」
「まだや」
「私ね、イチゴの味のやつ買う」
「へえ」

そんなこと言って、一度も言ったとおりのものを買ったことはない。冬には、肉まん食べたいと言ってコンビニへ連れて行かれて、結局レジの前であんまんか肉まんかたっぷりか二十分は悩んだし、春にはひな祭りのケーキが欲しいと言ったくせに、何故かチーズケーキを買うかどうかまたたっぷり悩んでいた。きっと今回もそうなりそうだ。

「なんでもええけど、早よ帰りたいしパッと決めや」
「大丈夫!イチゴって決めた」
「嘘くさ」
「ほんとほんと」

このやりとりも何度かした覚えがあるなあ、若干呆れているとツイ、と後ろからTシャツを引っ張られる。顔を少しだけ傾けて振り向くと、チサが気恥ずかしそうにはにかんでいる。良い予感はせん。

「あのさあ」
「ニヤニヤすんな、キモいわ」
「コンビニでずっと迷ってるとだいたいの友達は先に行っちゃうんだけど」
「ほなら、ボクも今回はそうさせてもらうわ」
「翔くんはなんだかんだ言って、ずーっと隣にいてくれるから」
「いてへんわ、冬も春も一回は店から出とる」
「でも戻ってきてくれるでしょ?だから…」


だからなんや、また長いことメロンかイチゴかなんかと迷ってんの待っとれってことか?
だから、の先はチサがいきなり走り出したのとあまりにゴニョゴニョ言うのとで聞こえなかったが、チラリと見えたチサの耳は赤かった。日焼けのせいとかじゃ、ないんだろう。しょうがない。今日は三十分以内に決められるのを祈るか。










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