マネージャー 流しそうめん


【流しそうめん計画】
そうデカデカと書かれたA4用紙を持って、いつものメンバーが私のクラスに来たのは茹だるような暑さの昼休みだった。このクソ暑い日に元気なことだ。私なんて、暑過ぎて下敷きで扇ぐのもやめてしまったというのに。もっとも元気そうなのは東堂と新開と真波くんだけで、荒北は福富の後ろで顔を顰めている。

「岡本!皆で流しそうめんやるぞ!」
「流しそうめん?なんで?」
「なんでっておめさん…流しそうめんは日本人の伝統だろ?」
「いや、知らないけど…普通にそうめん茹でてみんなで食べるんじゃだめなの?」
「岡本は何もわかっていないな!」

心底憤慨したというように、東堂が身を乗り出してくるから、涼しい話をしているはずなのに妙に暑苦しい。ていうか、背の高いガタイのしっかりした男子が私の席を取り囲んでいる時点で暑苦しい。体感温度的にも、見た目的にも。

「清涼感溢れる竹から流れる、白魚のようなそうめんを掬って食べたいとは思わんのか?」
「今そうめんもいろんな色があるから見た目的にも楽しいだろ?」
「チサさん〜おもしろそうだから一緒にやりましょうよ」

真波くんの隣で、福富も目をキラキラさせて頷いている。目が合うと、ことさら強く頷かれてしまった。

「福富も、流しそうめんやりたいの?」
「ああ、やったことないからな。楽しそうだ」
「うーん」

やろうやろうと騒ぐ三人はもうすでにやる気満々に、私の筆箱から勝手に取り出したシャープペンでメモを取り始めている。
いや、別に流しそうめん楽しそうだしやってもいいんだけど、メンバーがメンバーだし果たして私はそうめんを食べられるんだろうか…この三人は食べるに徹するんだろうし、荒北は興味なさそうにしてても、福富がそうめんを少しも食べれないようにはしないだろう。二年生たちも、助けてくれそうなのは泉田くらいだ。あ、でも泉田は葦木場に付きっ切りになるかもしれない…

「よく考えた結果だけど」

ジェットコースターのような絵を描いている三人が、揃って顔をあげる。それ、もしかして流しそうめんのセット?

「私は遠慮するよ」

やったら感想聞かせて、と言えば三人が同時に騒ぎ出して福富は目に見えて落ち込んでしまった。その後ろで、怠そうなのは相変わらずだけど目つきの鋭くなった荒北が私を睨みつけている。たぶん「福チャンが流しそうめん楽しみにしてるってんだから参加しろ!」って思ってるな、あれは。

「なんでだ岡本!一緒に夏の思い出をつくろうではないか!」
「いやあ、思い出はもうけっこういっぱいいっぱいっていうか、お腹いっぱいっていうか」
「チサさん、これみてくださいよ!そうめんが空中一回転するんですよ!」
「あー、すごいね真波くん、でもそれ成功するかな?」
「するに決まってるだろ?ほんとチサは心配性だなあ」
「根拠もないのになんでそんなドヤ顔できるの」
「チサさんも一緒にやりましょうよ〜!」
「う、いやでも真波くん私はあんまり…」


「なんでそんな嫌なんだよ?」

今まで沈黙を守っていた荒北が、ついに声をあげた。やけに真剣な声音。騒いでいた三人も、真剣な顔をしている荒北に途端に押し黙る。

「いや、嫌ってわけでは」
「じゃあ来りゃいいじゃねえか」
「え、そうなんだけど、でも」
「ハッキリしろよな」
「ええ、いや」

徐々に険悪になってくる雰囲気に冷や汗が背中を伝う。荒北って行事ごとはめんどくさがるけどみんなでワイワイやるのは好きだし、何より福富に対する気遣いがすごいからな..これはけっこう怖い。理由が理由なだけにあんまり言いたくないけど、東堂たちがソワソワし出したから、しょうがない。

「えー、いやだって…」
「なんだよ」
「理由聞いてさらに怒らない?」
「今も怒ってねぇよ」
「ええ……じゃあ信じて言うけど」

「あのね、だって私そうめんちっとも食べられそうにないメンバーだったから……やめとこーって…」

あ、鳩が豆鉄砲喰らった顔って、こういうことかなあ。私たちの周りだけ時が止まっている錯覚さえ起こす。荒北も新開も東堂も真波くんも、福富さえも、目をまんまるくさせて驚いている。

ええと、それだけなんだけど、と話を終わらせようとすれば、頭にドスンと衝撃を感じて思わず机に頭を打ち付けるところだった。悲鳴を上げる間も無く、さらにドスンドスンと私の頭に何かがおかれていく。重くて頭が上げられない。
それがみんなの手だとわかったのは、一番下に置かれた誰かの手が、私の頭をギリギリと締め上げるように握り出したからだった。ふつうに痛い!

「いたたたたたたちょ、だれ?!なにしてんの?!」

「そんなくだらねぇ理由で不参加だったのかよ、うちのマネちゃんはよ」
「チサ〜俺たち嫌われてんのかと思って一瞬焦ったぜ」
「女子に空腹感なんて味わわせるわけないだろう!まったく、しょうがないな岡本は」
「岡本、交代で食べればいい。そうすればみんなが食べられるだろう?」

「だから皆で一瞬にやりましょう!」

最後に真波くんの声がしたと思ったら、俯いた私の眼前にすっと差し出される計画書。【参加者 部員全員!】と書いてあるのを見て、頭の重みも合間って涙腺が潤みそうになる。自分勝手なこと言ってごめんなさい。

「うん、ごめん。じゃあ私も流しそうめんしようかな」

頭を締め上げていた、たぶん荒北の手、からふっと力が抜ける。と、手を押し付けるようにして撫でてくるし、他の皆も頭をかきまぜるようにして撫でてくるからくすぐったいやら首が折れそうやら重いやら。充足感に包まれながらも、そうめんが一回転する計画だけは早めに潰してしまおうと誓った。










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