まなみと 屋上


「あっまなみ見て、あれカモメ?」
「ん〜」
「まなみまなみ、今沖のほうでなんか跳ねた!」
「う〜」
「むこーうのほうにぼんやり見えるの無人島だと思う?」
「ん〜」
「こんな近くに無人島なんてないかなあ?」
「さあ…」
「あ、また跳ねたよ!見えた!」
「う〜」
「ちょっとまなみ起きてよ」
「ええ、頼むから寝かせて…」

屋上でお昼ご飯を食べて、程よい眠気に身を任せようとしたけどチサちゃんの計画は違ったらしい。ごろりと寝転がった俺を尻目に海の様子を逐一知らせてくるからぜんぜん眠れない。いや、知らせてくれるだけなら良いんだけど、返事を求められるからそれがいけない。しかも生返事だとさっきみたいに起こされるという…

「まなみまなみ」
「チサちゃんも寝なよ…」
「今ぜんぜん眠くない」
「俺は眠いの」
「また夜更かししたの?」
「そうだよ」
「えー」

じゃあいいや、と言ったきりチサちゃんはピタリと喋るのをやめてしまった。極端だ。
俺の側に座っていたチサちゃんが立ち上がる気配がする。教室に帰るんだろうか。できれば、本当にできればそのまま側にいてほしいなあ、と引き止めるべく手を伸ばしたんだけど、虚しく空をきっただけだった。まあ、しょうがないか……

「まなみ、おやすみ」

意識が沈んでいく中で聞いたチサちゃんの声はやっぱり遠くからだ。そっか、やっぱり帰っちゃうのか、










なんだか、頬のあたりにくすぐったさを感じて意識が戻った。何かひらひらしたものが、こしょこしょと頬に当たっているのだ。虫か何かだろうと目を開けずに追い払おうとしたら「ひゃっ」とよく聞き慣れた声がして、何か、布のようなもの手が触れた。俺が今着ているワイシャツみたいな、そういうの。

「ご、ごめんまなみ、起こしちゃった?」

囁くような、こわごわとしたチサちゃんの声に薄目を開けると、俺に覆いかぶさるようにしたチサちゃんが胸元のリボンを抑えている。ああ、あのリボンが頬に当たってたのか。

「なにしてんの…?」
「え、まなみの寝顔みてた」
「たのしいの?」
「うん」

そっか、楽しいのか。

「まなみ、まだ寝ぼけてる」

ふふっと顔を綻ばせるチサちゃんは、抑えていたリボンを離して俺の頬を摘みだす。ついついと引っ張ってみたり、上下に動かしてみたり、人の頬でやりたい放題だ。

「いひゃいんだけど」
「けっこう伸びる」
「たのしいの?」
「うん」
「ふうん」

外部なのに色白い、肌つるつる、まなみずるい、そんなことを一人で楽しそうに喋っては俺の頬を摘まんでいる。痛くはないし、特に嫌でもない。むしろさっきより、いい気分で寝られそうだと目を閉じる。「睫毛ながっ」チサちゃんが驚きの声をあげた一瞬だけ、指に力が籠められてそれは少し痛かった。

「ねえ、起きたのにまた寝るの?」
「ん」
「ちぇっ」
「帰る?」
「ううん。ここにいていい?」
「つまんなくない?」
「ぜんぜん!」
「もしかしてずっといた?」
「うん、あっちで海見たりしてた」

きっと新開さんや東堂さんなら、だいすきな女の子がこんな近くで楽しそうにニコニコしてるの見たらガバッと飛び起きて「好きだ!」なんて言っちゃうんだろうな。俺だってそうしたくないわけじゃないけど。

「ていうかまなみ肉薄すぎ」

腹立ってきた、とだんだん指に力をこめてくるチサちゃんに力が抜ける。まあ、まだいいか。

「チサちゃんおやすみ」
「はいはい」
「ていうか痛い」
「わざとだもん」
「ひどいなあ」
「ひどくない」







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