まなみと 学級委員の悩み事


「真波くん、次移動だよ。教室閉めたいから出てもらっていいかな?」

もう教室には私と真波くんしかいない。理科室はここから遠いのだ。私だって早く行きたいのに、真波くんは私の言葉が聞こえているのかいないのか机に伏せたままピクリともしない。いつもは岡本さんがなんとかしてくれるんだけど、彼女は生憎風邪で休んでいる。困った。

「真波くん、起きてる?理科室行こう」

うーん、と気怠そうな声を上げて少しだけ顔を上げた。寝ている感じではないし具合が悪そうな感じでもない。でも、機嫌が悪そうというか、なんだか拗ねてる感じだ。岡本さんがいないからだろうか?真波くんと岡本さんはよく二人で楽しそうにはしゃいでいる。相棒がいなくて調子が出ない、といったところだろうか。まだ昼にもなっていない。一日は始まったばかりだ。

「ねえ委員長〜俺帰る〜」
「はいそうですか、なんて言えるわけないでしょ、早く理科室行こう」
「先行ってていいよ」
「それもできないの、私から先生に鍵渡すことになってるんだから」
「今日全然やる気でないや」
「頑張ってよ真波くん」
「ねえ委員長、チサちゃんほんとに休み?」
「そう聞いてるよ」

拗ねたように目を細めて、また机に突っ伏してしまった。もう、困ったなあ。だんだんと廊下の騒がしさも落ち着いてきている。授業開始が近いのだ。これは理科室まで走らないと間に合わないかもしれない。真波くんは運動部だから問題ないかもしれないが、私は根っからの文化部なのだ。理科室まで走ったらしばらくは息が整わないだろうな。

「岡本さんが心配?」
「別に、心配とかじゃないけど」
「ただの風邪みたいだし、明日には学校来ると思うよ」
「うん」

殻に閉じこもったように、頑なに顔をあげようとしない。くぐもった声が、やっと聞こえる。

「ねえ、真波くんって、岡本さんが好きなの?」

ふと、前から疑問に思ったことが口をついて出てきた。ほんとうになんの気なしにするりと、まるで聞くのが当たり前のように口をついて出てきた。
途端にビシリと固まった空気で、失言だったことがわかる。張り詰めてしまった空気の中、背中を冷や汗が伝うのがわかった。それほど、この空気は緊張感を含んでいた。

「なんでそんなこと聞くの?」
「いや、いつも一緒にいるから、なんとなく」

ふだん怒らない人が怒ると怖いって本当だったんだな。怖い。真波くんが怒っているのかはわからないけど、少なくとも笑ってはいないだろう。どうやってこの空気を和ませようか、謝るのもなんだか火に油を注ぎそうな気がするし、なんであんなこと聞いちゃったんだろう!
ことばを喉の奥でもごもごさせていると、ふと何かが振動する音が聞こえた。携帯のバイブっぽい。私の携帯はサイレントにしてあるから、真波くんのだ。
恐る恐る「携帯鳴ってるよ」と言えば、めんどくさそうに手をリュックに突っ込んだ。真波くん、携帯、カバンに入れてるんだ…騒がしかったら気付かないんじゃ…
真波くんがディスプレイに目を落とした瞬間、氷のようだった空気が一瞬にしてとけた。ふっと、緩んだのがわかった。もしかしたら、岡本さんからなのかな。

「チサちゃんだ!」

やっぱり。岡本さんからのメールに目を走らせた真波くんは、突然リュックを背負い席を立ち上がる。あれだけ怠い怠いと顔もあげようとしなかったのに。

「委員長!早く理科室いこ!」
「え、うん、もちろん行くけど…いきなりどうしたの?」
「チサちゃんが授業のノートとっといてほしいって!早く行かないと授業始まっちゃうよ!」
「わ、わかったから、ちょ、引っ張らないで」
「走るよ!委員長!」
「いや、むりむり!手離して真波くん!」

早く早く!と手を引かれ全力疾走に近いスピードで廊下を駆け抜ける。これ絶対後で怒られる。私は特に、学級委員だし。他の教室から先生の注意が飛んでくる。どさくさ紛れに、さっきの質問をもう一度してみようかな。こたえはなんとなく、わかってるけど。







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