まなみと おはよう


「あ、まなみおはよ」
「もう昼だよチサちゃん」
「今日言ってなかったな〜と思って」
「俺、朝いなかったしね」
「そろそろ遅刻やばいんじゃない?」
「ん〜わかんないけど」
「朝も学校来てよ、まなみいないとつまんない」
「それ、ほんと?」
「嘘ついてどうすんの?ふつうに寂しいよ」
「そっか〜」
「明日は朝から来てね」
「がんばってみる」
「なんか、嘘っぽいなあ」

俺も一応毎日がんばってるんだけどなあ。市街地を走ってるときは確かにチサちゃんのこととか部活のこととか授業嫌だなとか考えてるんだけど、良い感じの坂を見つけるとどうしたってのぼりたくなっちまう。

「朝、電話してあげようか」
「俺たぶんチサちゃんより早く起きてるよ」
「知ってる。この前、朝の6時に電話かかってきたときはさすがに殴りたかったよね」
「後で殴ったじゃん」
「違うの!電話しながら殴りたかったの!」
「暴力こわい〜」
「今のまなみもほんと殴りたい…ってそうじゃなくて、坂のぼりそうになった時に電話してあげようか?って」
「ああ、たぶん気付かないからいいよ」
「気付いてよ!どうすんの!」

頭を抱えながらうんうん唸るチサちゃんに、嬉しさ半分ありがた迷惑半分と言ったところか。俺がいなくて寂しいって言うのは嬉しいんだけどなあ。まあ、よく考えるまでもなく、朝仲良しがいなくて寂しいっていうことだと思うけど。

「あ、ねえねえ購買行かない?」

チサちゃん諦めるの早すぎ。あれだけ顔を顰めてうんうん唸っていたのに、ころっと表情をかえて首を傾げている。

「いいけど、電話の話もう終わり?」
「だって気付かないならしょうがないじゃん」
「もっとがんばってよ」
「いやいやまなみががんばりなよ」
「チサちゃんががんばるなら俺もがんばる」
「じゃあ私はまなみががんばったらがんばる」
「よくわかんなくなってきた」
「私も。購買行こっか」
「何買うの?」
「なんか、急にシュークリーム食べたくなった!」
「ふうん。じゃあ俺も甘いもの買おっと」
「何にするの?」
「まだ決めてない」
「エクレアだったら半分こしよ?」
「いいよ」

やった、とはしゃぐチサちゃんに前の席の男子が呆れながら、お前らほんと仲良しな、と笑いかけた。チサちゃんも楽しそうに笑い返している。
あれっ、そいつとそんなに仲良かったっけ?仲悪くはなかったけど、特に話したりしてなかったよね?あれっ?

「まなみが朝来ないから最近仲良くなったんだよ」
「あ、いや、その、他意はないから、真波。うん、ほんと、なんとなくだから」
「朝、よく話し掛けてくれるよね!」
「そんなことないって、たまにだからほんと。大丈夫、真波。ほんとたまにだから、あ、俺食堂行かなきゃ」

気まずそうに席を立った男子に、チサちゃんは呑気に手を振っている。

「ねえチサちゃん」
「んー?」
「やっぱり朝電話かけてよ」
「ええ、気付かないんでしょ?やだよ」
「気付くから!絶対!」
「な、なんか急に気合い入ったね……」
「こんなことになってるとは思わなかった」
「…もしかしてさあ、まなみ」
「えっ?」
「え?」
「え、チサちゃんわかったの?その、俺の…」
「うーん、ええと、勘違いだったらすごく恥ずかしいんだけど…」
「う、うん」
「改まんないでよ!余計言いにくいよ!」
「改まってないから!ねえ、言ってみてよ!」
「ええ、だからさあ」

期待に心臓がドキドキする。脈打ちすぎて痛いくらい。今にも俺のことをまなみちゃんと呼びそうなチサちゃんでも、やっぱりさすがに気付いたんだろうか。

「だから、あの、まなみはさ」
「うん」
「まなみは、まなみはさ」
「うん」
「だっだから、まなみは私のこと」
「うん!」
「一番の友達だと思ってくれてるんだよね?!」
「え?」
「え?ち、違った?」
「いや…違わないけど……え?」
「え?だから、その、嫉妬、してくれたんだよね?」
「まあそうだけど……チサちゃんさあ、そこはわかるのになんで…」
「大丈夫!わたしやっぱりまなみとこうやって喋ってるほうが楽しいもん!だから、朝もまなみが来たら嬉しいよ!」
「それは…ありがと…」

恐ろしいほどに落ち着いた心臓がかえって虚しい。絶対にエクレアはあげないし、チサちゃんのシュークリームだって食べてやる。







「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -