まなみと イメチェン


「わあ、今日のまなみかわいい!」

珍しく朝から教室に入ってきたまなみは、いつもと少しだけ違っていた。前髪を赤い髪留めでとめていたのだ。サラサラの濃紺の髪に赤いピンが映えている。

「なにそれどうしたの?かわいいね!まなみかわいい!」
「かわいいって言われても嬉しくないんだけど…今日朝練行ったら新開さんがくれた」
「へえ!これ、新開さんのかな?男の人でもこういうの買うんだね」
「さあ、どうなんだろう」

どこか含みを持ったまなみの言葉は疑問だったが、今はそれよりこのかわいいまなみを愛でるほうが大切だ!こんなまなみ、きっともう二度と見られないかもしれないし。まなみって、女の子みたいに可愛いのに無頓着だからなあ。こういうサプライズはとても貴重だ。

「まなみってほんと色白いよねえ…」
「ちょっ、あんまり見ないでよチサちゃん」
「自転車部って外でやってるのになんで?ずるい」
「チサちゃんだって俺と同じじゃん」
「まなみのほうが白いよ!なんていうか、もとが違う!」
「わかんないよ〜そんなこと」
「おでこもキレイだねえ、白いしニキビもないし、まなみキレイ…」
「もう、やめてよ」

よっぽど嫌だったのか、もうこんなの取る!とピンを取ろうとしたので慌てて止めた。もったいない!

「まあまあまなみ、いいじゃん今日一日つけてなよ」
「やだよ、これつけてるとチサちゃん鬱陶しいもん」
「まあまあまあまあ」
「じゃあチサちゃんがつければ?あげるよ」
「私がつけたってなんにも面白くないんだけど」
「俺がつけたって面白くないよ」
「私はおもしろいよ!」
「そんなの俺はやだよ〜!」
「いいじゃんまなみ!もうなんにも言わないから!黙ってるから!」
「やだ。俺、新開さんとこに返してくる」
「えええ!後生だからまなみ!返さないで!ねえお願いまなみ!それつけててよ!」
「うわっどんだけ必死なんだよ、怖いよ」
「お願い!ジュース奢ってあげるし今度たこ焼き奢ってあげてもいいから!」
「やだってば。もう、なんなんだよ女の子って…意味わっかんないなあ」

ブツブツと唇を尖らせながら、まなみはピンをとってしまった。さらりと落ちる髪の毛は、もうすでに定位置で微かに揺れている。ああ、短い間だったなあ…わたしがもう少しおとなしくしていたら、もっとあのかわいいまなみを見ていられたかもしれないのに…私のバカ!

「今度はポンポンの着いたゴムとか、くれないかなあ?新開さん」
「持ってそうだけど俺は絶対嫌だからね」
「持ってそうなんだ…ほんと新開さんって何者…」
「見たことないっけ?」
「うん。まなみの話聞いてて気にはなってるんだけどね」
「箱根の直線鬼なんだよ」
「鬼……?鬼なのに、ポンポンのついたゴムとか持ってるの…?」

それって怖いの?怖くないの?今までのまなみの話だと、おもしろくて明るい先輩っぽかったけどそれがアクセサリー好きの鬼…?よくわからない。自転車部ってミステリアス。

「ねえねえまなみ、もう一回ピンつけてよ」
「チサちゃんしつこい」
「もっと可愛いようにやってあげるから」
「別にいいって」
「もったいないなあ…」
「自分でやればいいじゃん」
「自分だと全然楽しくないんだよね」
「チサちゃん、かわいいよ」
「またまた」
「ほんとだって」
「またまたまたまた」
「あーチサちゃんはかわいいなー俺なんかよりよっぽどかわいいなー」
「またまた」
「ねえ、顔赤いよ」
「またまた」
「チサちゃんかーわい」
「もういいから早くピンつけてよ!まなみの馬鹿!」
「かーわい」







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -