まなみと ラヴレター

朝から珍しいものを見た。朝のこんな時間に、まなみと下駄箱で会うなんて今までなかったんじゃないか。まなみはだいたい昼から来るし、朝来たとしても部活だからもっとギリギリに校舎に入ってくるのに。珍しい。

「まなみおはよ。珍しいね、今日朝練ないの?」

緩慢な動作で上履きに履き替えていたまなみは、わたしの声を聞いてこれまたダルそうに目線をこちらに寄越す。目が半開きだ。ちょっと腫れぼったくもみえるし。もしかして体調悪いんだろうか。

「うん。チサちゃん、おはよ」
「なに、具合悪いの?大丈夫?」
「眠いだけ」

昨日あんまり寝てなくてさあ。欠伸をしながらふにゃふにゃと口を動かすまなみは本当に眠そうだ。まなみ、授業中はけっこう寝てるけど寝起きはいいからこんなの珍しい。相当寝てないなこれは…

「何時に寝たのー?」
「んー、四時くらいだったかな」
「四時?!」
「ちょ、チサちゃんうるさいー」
「どうしたのまなみ!あんなに健康優良児だったまなみがどうしたの!なにがあったの?!悩み事?!」
「違うよー大げさだなあ。俺だって夜更かしくらいするよ」
「まなみと夜更かしってぜんぜん繋がらないよ…」
「昨日発売したゲームやってたら朝になっちゃってさ」

ああ、納得した。ゲームか。そうだ、まなみってゲーム好きだったんだ。これもまた意外だよなあ…まなみとゲームってシロクマとツキノワグマくらい接点なさそうなのに。

「ねむー」
「三時間くらいしか寝てないんでしょ、当たり前だよ」
「さっきまでの優しいチサちゃんはどこいったの」
「ゲームで夜更かしする人に優しくなんてしないもん」
「保健室ついてきて」
「だめ!教室行くの!」
「やだよ机って寝にくいんだよ」

なに今日に限って文句言ってるんだまなみは。いつも構わず机に突っ伏して寝てるのに。まあ、そりゃあ確かに机の上は寝にくいけども。
まだぶつぶつと言っているまなみに、ほら、靴しまって!と促すと諦めたようにため息を吐いて靴箱の蓋を開け、また閉めた。その間、数秒。なに、なにがあったの?まなみの靴箱になにかあったの?

「どうしたのまなみ。ほら、靴しまわなきゃ」
「あ、いや、チサちゃん今の見た?」
「なにが?まなみが光の速さで蓋開け閉めするのは見たけど」
「そっか、よかった…」
「なになに?なにが入ってたの?」
「なんでもないよ。先教室行ってて」
「気になる」
「なんでもないって」
「見せてよー」

そう頑なに隠されると、かえって気になるのが人間というものだと思う。こんなに秘密にしたがるということは、もしかして、もしかしてまなみも男の子なんだし、やっぱりそういう可能性もなきにしもあらず。

「わかった…エッチな本が入ってたんでしょ」
「エッ…!違うよ!なに言ってるんだよ!」
「焦るところがあやしい」
「違うってば!」
「そんなのいまさら隠さなくてもいいよ、チサちゃんに見せてみなよ」
「今日のチサちゃんすごく鬱陶しい」
「隠されると見たくなるのが人間なの」
「もう………ただの手紙だよ」

ほら、とあれだけ頑なに開けようとしなかった靴箱から取り出したのは、花柄のかわいい封筒だった。真波くんへ、とまるい、女の子らしい字が書いてある。

「わあ、わたしラヴレター初めて見た。まなみ、モテるんだね」

すごい!賞賛のことばをおくったつもりなのに、なぜかまなみはぜんぜん嬉しそうじゃない。むしろ、口を尖らせてつまらなさそうにわたしを見ている。なんなんだいったい。

「チサちゃんさあ……」
「ねえ、付き合うの?」
「…断るつもりだけど」
「ええっなんで?」
「えっと、部活忙しいし…あんまり時間ないし」
「ああ、そっかあ。自転車部ってけっこう厳しそうだもんね」
「あのさあ、チサちゃん」
「んー?」
「あー、いや…教室行こっか」

手紙を鞄にしまうまなみに少しだけ安堵した。そっか、断るんだ。よかった。まなみに彼女できたら、あんまりいっしょにいたらまずいもんなあ。高校では仲のいい男友達なんてそうできないだろうし、まなみがいなくなったら、ちょっとは寂しいかもしれない。いや、けっこう寂しいかもしれない。むしろ、泣くかもしれない。

「お待たせ。行こっか」
「うん、ねえまなみ」
「なに?」
「彼女できるまでは仲良しでいてね!」
「えっ」
「えっ?」
「あ、うん」
「なんでちょっと嫌そうなの」
「ねえチサちゃん」
「…なに」
「チサちゃんも、俺に手紙くれてもいいんだよ?」
「…なに言ってんの?」
「だから、ラヴレター、チサちゃんのならもらってあげるよ」
「またまたー!部活忙しいんでしょ、さっき聞いた」
「あ、いや」
「じゃあ、授業中メモまわしてあげる。わたし、苺の折り方教えてもらったんだ」

かわいいんだよ、と言えばまなみはまた口を尖らせてつまらなさそうにする。そっぽを向いて、教室とは別の方向に向かう背中を慌てて叩いた。







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