まなみと ジャージ

「まなみ、どうしよう。ジャージ忘れた」

珍しく真剣な顔で話しかけてくるから何かと思えば、そんなこと俺に言ってどうするの?そういうのって、ふつう女子に言うもんじゃない?
なんて答えればいいのかわからなかったから、へえ、とだけ返したら顔をぐしゃりと歪めて、冷たいと泣き真似を始めた。俺にどうしろって言うんだ。

「今日のまなみ冷たいよ〜」
「冷たくないけど…誰か友達に借りてきなよ」
「次の時間体育じゃないクラスに友達いない…」
「ええ?じゃあもう、忘れたって言えば?」
「言えないよ!わたしの体育の成績いくつだと思ってるの?!これ以上悪くなったらわたし…」
「どうせ2か1でしょ?そう大差ないじゃん」
「すごい差だよ!」
「そうかなあ」

2でも1でもあまり良くないという点でそんなに変わらないような気がするけど…女の子っていうのは細かいことを気にするのかなあ。

「だからね、まなみのジャージ貸して」
「ええ?やだよ、俺だって次体育だし」
「部室によぶんなのない?」
「ないよ。俺たちサイクルウェア着て部活すんだもん」

それに、俺のジャージ着て体育するチサちゃんなんてあまり考えたくない。チサちゃんから返してもらったあともいろいろ扱いに困るし。
ジャージを借りてもいいと思われるくらい仲良しなのは嬉しいけど、チサちゃんって俺が男だってわかってるのかな…俺の呼び方も、今にもまなみちゃんって呼んできそうでこわい。

「そのサイクルウェア?って、ジャージみたいなもの?」
「違うし絶対貸さないからね」
「ええ、なんでまなみ…お願いします…体育バスケだから制服だとこまる…」
「チサちゃんは、サイクルウェア着れないと思うよ」
「え、ど、どうして?わたしまなみより太ってる?」
「まあ……いろいろと…」
「あ、まなみがサイクルウェア着て、わたしがまなみのジャージ着たらいいんじゃないかな?」

ひらめいた!というように満面の笑みを浮かべてるけど、それだと俺がジャージを忘れたことになる。でも、チサちゃんが俺のサイクルウェアを着るより百倍マシに思えてくるから、気を付けないととんでもないことになりそうだ。

「だから俺も次体育だって」
「あ、そうだった!どうしよう!」
「誰かいないの?友達」
「い、いない…」
「じゃあさ、先輩とか」
「せ、せんぱい……………あ!」
「いた?」
「いた!同じ委員会の先輩なら、かしてくれそう!」

メールしてみる!と携帯を取り出して慣れた手付きで画面を動かし始めたチサちゃんに、やっと安堵の息が漏れた。よかった。自転車部も見に来たことないから、サイクルウェアってどんなものか知らないんだなあ、きっと。知らないってこわい。

「送信っと…」
「打つのはや」
「最初すごい練習したよね」
「メール打つ練習ってなに?すごい無駄だね」
「まあ、何やってるんだ感はあったよね」
「勉強しなよ」
「それ、まなみに言われたくないなあ……あっ、返信きた!貸してくれるって!」
「よかったじゃん!」
「うん!まなみありがとう」
「帰りに自販機でジュース買ってきて〜」
「はいはい」

貸りに行ってくるね!すでに教室を飛び出したチサちゃんの背中に、ヨーグルトのやつだよ!と叫んだらわかってるよ!とすぐさま返された。それが、なんだか嬉しかった。







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