まなみと 数学教えてください

「ねえねえチサちゃん、問五見せて」
「えっごめん、そこわかんなくて飛ばした」

ほら。プリントを見せれば、まなみはあからさまにがっかりしたようだった。なあんだ、と言ったきり黙っている。いやいや、まなみだって私に負けず劣らず穴だらけのプリントだよね。むしろわたしのほうが埋まってるくらいだよ。

「他の問題やれば」
「今奇数だけやってて問五ができたらコンプリートするから」

珍しく真面目に取り組んでると思ったらそんなことしてたのまなみ。あ、でも真面目に取り組んでるから良いのか?「コンプできないならもういいや」と鉛筆を投げ出したまなみを見る限りあまり良い取り組み方にはみえない。

「あと一問ならがんばりなよ」
「これ何度やってもわかんなかったんだよね」
「これ難しいよね。私は見た瞬間飛ばした」
「チサちゃんこそがんばりなよ」
「数学嫌い…できない…」
「俺よりはできるじゃん」
「そうかもしれないけどレベルが低すぎるよね…宮原ちゃんがここだとしたら私たちなんて地下あたりだからね」
「委員長すっげー!」
「買い物とかさあ、暗算でパパッと計算しちゃうのかなあ」
「俺、レジでお金足りないことに気付くのけっこうあるよ」
「わたしも!」

まなみが財布を取り出す真似をして大袈裟に眉を垂れた。その顔よくする!わかる!手を叩いて爆笑すれば、すごく混んでる購買でお金が足りないことに気づいたときの顔もオマケでやってくれた。わかる、その目をキョロキョロさせるのわかる、クオリティ高すぎる。

「そういうときに限ってさあ、微妙に足りないだけなんだよね。二十円とか」
「あーわかる。あれってまけてくれないのかな」
「新開さんが言ってたけど、おばちゃん褒めるとまけてくれるらしいよ」
「今日も美しいですね!とか?」
「それ嫌味にならない?」
「じゃあどう言うの」
「えー……この美味しいパンつくったのおばちゃん?俺、すっかりこのパン大好きになっちゃった!毎日食べたいな!とか?」
「それ新開さんが言ったの?」
「俺が考えた」
「まなみ天然すぎてこわい」

天然ってなに、と唇を尖らせるところがなんとなく天然っぽい。まなみって腹黒なんだか純粋なんだかよくわからない。

「ねえチサちゃん、なんかお腹減らない?」
「減った」
「帰りどっか寄ってこーよ」
「さっき購買の話したからパン食べたい」
「俺ラーメン食べたい」
「ええ、ラーメンのびるからやだ」
「チサちゃんさあ、食べるの遅すぎるんだよ」
「熱いもん」
「ぬるめでつくってもらえば?」
「なにその不味そうな注文」
「大将怒るかな」
「怒るでしょ。ウチのラーメンは出来立てアツアツが売りなんじゃ!それを温めとは最近の若いもんは!!って怒鳴られるでしょ」
「それも見てみたい気もするけど」
「じゃあまなみが言えばいじゃん」
「俺部活でいっつも荒北さんに怒鳴られてるからもういいや〜」
「ていうかさ、その前に私たち早くプリントやらないと先生に怒鳴られるよね」
「お前たちなんでできないんだ!全部教科書に書いてあるだろ!授業であれだけ説明したぞ!!」
「まなみヤバイ似てる」

ひととおり二人で笑って、おとずれる静寂。お互いの手元を見ればほぼ白紙の数学のプリントが蛍光灯に寂しく照らされている。「これどうしよ…」どちらともなく呟かれた言葉に答えを返すように、廊下のほうから「おーい補習二人組ー!できたかー?」数学教師の声が聞こえる。私たちに選択肢などない。せめて教科書を広げて思いっきり悲しそうな顔をするしかない。

「あっ」
「なにチサちゃん」
「まなみが真似うまいのってさ」
「うん」
「補習するたびにこうやって乗り切ってるからじゃない?」
「ええ、違うと思うけど」
「絶対そうだよ」
「そうかなあ」







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