マネージャー みんなで

「洗濯物乾いてるから持っていってねー!」と、各々片付けを始めた部員に声をかけると、野太い声で「あざーっす」と返されるのが日常。四方をごつい男たちに囲まれ、熱気の充満する部室で作業をする。時には選手と一緒に備品を運んだり話を聞いたり、悩みを聞いたり、励ましたり慰めたり、どうにもわたしは最近お母さんになっている気がしてならない。花の高校生なのに、お母さんになっている気がしてならない。つい先日も真波くんが「お母さ……チサさーん、ドリンクくださーい!」 といい間違えたのを私は聞き逃さなかった。

このままではまずい。焦って目を泳がせると、備品を持つことで鍛えられた自分の前腕を見てしまい背中が震えた。





「みんなちゃんと片付けしたー?!まだ洗濯物取るに来てないひと……これ真波くんのだよ!真波くんどこ!!葦木場くんのボトルさっき水道のとこにあったよ、え?山田くんのタオル?洗ってないから知りません!!え?だって洗濯物のとき出さなかったんでしょ!見てないよ!」

なんで洗ってくれないのと騒ぐ山田くんの声をBGMに、ただひとつ残った真波くんのタオルを掲げて本人を探す。ロッカールームに消える部員から真波くんを探しつつ、トレーニング器具を整頓することも忘れない。真波くん以外の部員が全員ロッカールームへ消えたのを確認してため息をついた。早くタオルを渡して両手を自由にしたいのにいったい何処にいったんだ、いや、なんとなく行き先はわかっているんだけど、なんで部活終わりがけに行くのか心底理解できない。
洗ったばかりのタオルをそこらへんに置いておくのも嫌だし、かといって今さらロッカールームに入って「これ真波くんに渡して」という勇気もない。
真波くん早く帰ってきてよ、とイライラしながら片手で持ち上げたダンベルの重さをふと見たら4.2kgもあって、軽々と持ち上げたことにびっくりして慌てて手をはなした。めり込むように落下したダンベルの音に気づいたのか、ロッカールームから荒北の「どうしたァ!」という叫び声が聞こえた。「ダ、ダンベル持ち上げちゃった!!!4.2キロの!」と半泣きで返せば、切羽詰まったような東堂の「4.2キロ?!女子が?!!」という叫びが聞こえ、精神に千のダメージ。東堂、モテないと思う。最低。

渦中にあるダンベルを、憎しみをこめて爪先で蹴りながら隅へ寄せていると、突然開いた扉から真波くんが飛び込んできた。嵐のように「すいません!オレ、部室帰る途中坂見つけちゃって登ってました!途中からすごくキツイ坂で俺もう夢中なっちゃって!…あ、それ、俺のタオル!洗っといてくれたんですか?ありがとうございます、あ、あと、ダンベルは蹴っちゃいけないんですよチサさん!」と大声でまくし立てるもんだから、ロッカールームから「オイ!備品は大切にしろっつってんだろォ!!」と荒北に怒鳴られた。

ダンベルを蹴っていたわたしが悪いのだが、遅れて帰ってきた挙げ句ダンベルを蹴っていたことをバラされ荒北に怒鳴られる元凶となった真波くんにいい気はしなかった。真波くんを睨みつけ、タオルを顔めがけて投げつけたが、そこはさすがの運動神経で見事なキャッチを見せてきた。何故タオルを投げつけられたのかわからずキョトンとする真波くんに地団駄を踏んで、「早く着替えて!」とだけ言うと首を傾げて瞬きを数回繰り返したあと、ふと思い立った顔で「生理ですか?」と尋ねてきた。
恥ずかしさや衝撃よりも、言い知れないやるせなさがじんわりと込み上げてきて誤魔化すように、「いいから早く着替えて!」と真波くんの背中を叩いた。







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テーマ「人外ファンタジー」
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