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目が覚めたら
いつも通りの日常

知らない誰かが皮肉に笑う

なぜだか無性に家族が、友達が、恋しくなった。




ゆらゆらと浮上した意識、ぼんやりとしたまま見た事のない木目調の天井を眺める。寝起きの頭は中々働かない。確か夕飯も食べずに寝ちゃってその後はどうしたんだっけ…もしかしたら寝過ごしたまま夜が明けて朝が来たのかもしれない、それ位よく眠ってた気がする。それなら早く起きて学校へ行く準備しないと…今、何時だ?

「目が覚めたのか?」

ひょこっと頭上から現れた小さなトナカイの顔が視界一面に広がり驚き過ぎて息が止まった。鼻と鼻が触れ合いそうな程の近さから覗かれじっと見つめてくるまん丸な瞳を硬直したまま同じように見つめ返す。

「…………」
「おい?どうしたんだ?!!ってわああああ大変だああーーー!!!目開けたまま気絶したああーー!!」

なんで今、目の前にチョッパーが……?!

ドタバタした騒々しさにハッと飛んでいた意識が戻ってくる。いけない…現実逃避しかけてた。駆け回る相手に大丈夫と声をかければいろんな色の薬やら何やらを抱え込んでいた相手も落ち着きを取り戻してくれる。のっそりと上体を起して部屋を見渡すと俺の部屋ではなく卓上に並ぶ医療器具やそして微かに香る消毒液の匂いからここが医療室と分かった。ここはあのサンセットビーチではなく彼らの船の中で海の上のようだった。
散らばってしまった道具を片付け終えた小さな相手は今度は傍らでせっせと俺の血圧を測っている。

「お前は丸一日寝てたんだ。診た所外傷もないし、多分精神的なストレスが原因だと思う。」

手持ち無沙汰な間にこっそり相手をまじまじと観察し本当にトナカイなんだなと思ってれば俺が口を開かず黙っている事に何を思ったのか向こうから話出してくれる。そしてテキパキと慣れた手付きで診察を済ましもう大丈夫と言われて器具を片付ける姿まで見てから医者なんだなと今更な事に感心した。

「おれの名前はトニートニー・チョッパー!ここの船医だ!」

うん、知ってる。知ってますとも。
なんて言葉を言えるはずもなく、誇らしげに胸を張って名乗る姿が可愛くて見えて笑いそうになり慌てて口を引き締めて自分も同じ様に応えた。

「…俺は名無田名無し。えーと、チョッパーがずっと看病してくれてたんだよね?ありがとう」

「お、おれは別に……医者だから、……あ!!!」

なんの気もなしに交わす会話が突然途切れ、何かを思い出したみたいに声を上げたチョッパーは今度は気まずそうに視線を彷徨わせていたがそのまま俺から距離を取るように離れると回るイスの物陰に隠れてしまう。逆向きだから隠れられていないけど。急な態度の変わり様に首を傾げればチョッパーは口を開いた。

「おれは…トナカイだ!…、2本足で歩く…青鼻だ!」

急に言われた言葉の意味が分からず、いや意味は分かるけどその意図が見えなくて、反応に困り瞬きを繰り返した。恐らく今の俺の頭上にはでかでかと大きな?マークの吹き出しが浮かんでいるはず。おずおずとした調子でチョッパーは言葉を続けた。

「お前、おれが怖いんじゃないのか…?」

え?

眉根を寄せて俺を見るチョッパーのいきなり発言から何かしちゃったのかと記憶を振り返り、すぐに答えを見つけ思い出す。そういえば出会った最初にびっくりして大声あげて逃げたんだった……人から疎まれていた過去を持つチョッパーから見ればそれを“怖がってる”と解釈されてしまってもおかしくない。それでもどこの誰とも分からない倒れて気絶した俺を放る事もせず彼自身の手でわざわざ看病してくれていた事に申し訳なさが胸に広がった。

白いベッドから足を降ろししっかりと地に足をつけて立ち上がると俺は開いた距離を縮める為に自分から近付き視線を合わせる様にしゃがみこんだ。

「怖くないよ……あの場所に俺一人だと思ってて、チョッパーと会ったのもいきなりだったからびっくりしてつい叫んじゃっただけなんだ。…だから、あの時は逃げてごめんなさい」

本当はチョッパーの叫び声に釣られてしまった所もあるけれど逃げたのも事実でその行動でチョッパーを傷つけてしまったならちゃんと謝りたかった。じっと俺を見つめていたチョッパーもふるふると首を振ってニッと笑ってくれる。チョッパーの可愛さに思わず胸がキュンとした。

そして不意に届いた遠くからの賑やかな笑い声に顔を上げれば再び「あ!!」と声をあげるチョッパーに顔を戻す。

「ナナシが中々起きなくて皆心配してたんだ!おれ皆に知らせてくる!」

トコトコと軽快な足音を鳴らして医療室から飛び出していった小さな背中を呼び止める間もなく見送ると静かな部屋に一人残された。
ふーっと長い息を吐き出してから俺はがくんと床に両手をついた。
和やかに落ち着いてチョッパーと話て見たけれど内心は大パニック。
今なら窓から大声で叫びだしたい。

砂浜で目を覚ました時からおかしいと思ってたんだ。
夢にしては何もかも全てがリアリティ過ぎるし、今まで目の前にいたチョッパーは作り物でもなく、本物だった!
でもまさか自分が過去や未来に行くんじゃなくそれも『ONE PIECE』の世界に!

こんな事ならちゃんと漫画を読んでおくんだったとか後悔に頭を打ち付けたい衝動を何とか抑える、こういう時こそ落ち着かないとダメだ。
とりあえずいつまでも目を反らしている訳もいかない。
悔しまぎれにギュッと頬を抓ってはヒリヒリと頬が痛む。そうこれが今の俺の現実。
よしっと気合を入れて立ち上がるとチョッパーが戻る前に俺は自分から部屋の外へと一歩踏み出した。諦めの悪い俺はほんの少しだけ淡い期待を抱いて。

けどそんな期待もすぐにどっかに消えた。


海風に煽られる髪を片手で抑えながら見上げた先には誰もが一度は目にした事があるだろう有名な麦わら帽子を被るドクロマークの海賊旗
穏やかな天候の下、風に吹かれて大きく帆を張っている。

そして広い甲鈑で愉快に騒ぎ合うこれまた有名な海賊達一同が一斉に俺へと顔
を見せた。


世界はいつも、美しくあって希望を与えずに
(振り返る道は、どこにも見えない)

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