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また俺は真っ白な世界に居た。

夜が訪れ眠る度に俺はここにやってくる。


一点の曇りの無い白い世界はどこまで広くどこまで続くのか全く分からない。

何も起きず何も出来ず何からも傷つけられる事も脅かされる事もないこの世界はとても優しく無機質で残酷だ。

俺がたった一人だと言う事実を否応なく突きつけてくる。

だから俺は気にせず夢の中でもう一度眠って夢に帰る。今の俺の現実の場所へ。


「いい夢はみれているかい?」

何もないはずの世界から初めて声が聞こえて俺は飛び起きた。姿は見えないけれど確かに俺の耳には聞こえた、俺が最初に見た夢の時と同じ声が……

「てめぇ、今すぐその面見せやがれっ!!一発殴らせろ!!」

口が悪いとかはこの際放っておいて、ようやく怒りをぶつけられる相手の登場に俺は声を張り上げていた。けれど見えない相手はどうして俺が怒っているのか理解できないとばかりに軽やかな憎らしい口調で応える。

「ボクはキミの望んだ世界に連れてきた」

「誰も本気でトリップしたいなんて言ってない!それに俺が言ったのはゲームの世界でONEPIECEじゃない!」

「ボクはキミの部屋にあったモノからここへ連れてきた」

部屋にあった物?確かに俺の部屋には『とき愛』のゲームが机の上に・・・・・・そこまで思い出してハッと気づく。俺はゲームの上にチラシを置いた、『ONEPIECE』が表紙のチラシを。だからって『とき愛』と『ONEPIECE』を普通に間違えるのか。そんな些細な偶然でと俺は片手で額を抑えた。

「そうか、だからキミの存在がオカシクなっているのか」

何かを納得した様に突然言われた意味が分からず、覆っていた手を額から降ろし何もない空を見上げる。

「3つの世界がキミに干渉している」

「キミの望んだ世界がキミに影響している、そして世界にも影響している」

干渉?影響?なんでそんな回りくどい言い方をすんだよ!もっとわかりやすく説明しろよ!俺の心の声を聞いたのか感じ取ったのか見えない何かは続けて言葉を紡ぐ。

「望んだ世界の望んだチカラをキミも感じている。」

「望んだ力って・・・なんだよそれ?みんなに俺が愛されるって設定でも付いてるっていうのかよ?バカバカしい・・・」

『とき愛』はただのギャルゲー、恋愛ゲームだ。ありふれた日常生活を描いたあれには特別な能力やファンタジー要素なんて一つも入ってなんかいない。ただ一つ普通と違うと言うなら主人公だけだ。どこにでもいそうで絶対いない立場の人間。ふざけてると悪態ついて放った言葉を見えない何かは否定しない。黙ってるって事はつまり・・・

「嘘だろ・・・?」

信じられないそんな思いでこぼれた呟きを見えない何かが笑った気がした。
あぁだからか、俺がルフィやサンジやゾロに見たあの映像はゲーム画面の向こうで見たエフェクトと全く同じだった事にようやく気づいた。あのエフェクト効果は攻略対象が主人公に対して意識し始めた表れだ。大抵は攻略対象と顔を会わす最初か出現行動を起こして遭遇した時に名前表示と一緒に現れる。一種の目印みたいな物だ。

やっと思い出せてスッキリ!・・・なんて思うはずないだろ?!
可愛い女の子から矢印向けてもらえるなんて男なら夢見たいな能力だよ?俺だって嬉しいさ!これがとき愛の世界だったらね!

だけど生憎ここは冒険と友情の詰まった少年漫画『ONEPIECE』8割?9割?男しか出てこないんだぞ?男にモテたって誰が嬉しいんだよ!!嫌な思い出しか無い俺にとってこの世界でこんな能力(体質?)は拷問だ。
いや、尾田せんせーの描く女の子は皆ナイスバディーだし美人で可愛い子が多いから百歩譲って良しとしよう・・・

どうしてナミやロビンに映像が現れないんだ 。

なんか特別なフラグでも立てなきゃいけないの?それとも2周目以降のキャラとか?二人共美人だし難易度が高いってやつ?
アハハハそっかそっかぁ・・・納 得 出 来 る か 。

俺が脳内ツッコミを繰り返してる間に朝が近づいて来たのか急に俺の意識がブレ始めた。まだアイツに聞かなきゃいけない事山ほどあるのに・・・!
焦って「(待て!)」と口を型どっても声が出ない。目を開けている事も立っている事も出来なくて俺は座り込む。

「キミは選ばれた」

「特異で異質・・・だからこそ特別な存在」

「世界は・・・キミ・・・し・・・くれ・・・る・・・って、・・らん・・・」

ザーザーとノイズが混じった様に見えない何かの声は遮られてしまい途切れ途切れにしか俺には届かない。

最後に名前を呼ばれた気がして白い世界は閉じた。





「ナナシーー!!!島が見えたぞ!!!」

耳元から大きな声が聞こえて、慌てて目を開け体を起こすとルフィが楽しそうな笑顔を浮かべて立っていた。男部屋の中を見渡しても俺とルフィ以外の姿は無くて寝過ごしてしまっていた事に気づく。それもまさかルフィに起こされてしまうのだから熟睡してしまっていたんだろう。

「飯食ったら島に降りるからな!!ナナシも一緒に行くぞ!!」

そう俺に声をかけたルフィの笑顔に「う、うん」とぎこちなく応える。
夢の中で知った事が俺の中でまだ引きずっていたからだ。

《みんなから俺が愛される・・・?》

それが本当ならルフィも・・・
そろりとベッドの上で後ずさってしまった俺の態度に首を傾げたルフィだったが特に気にした風でもなく「ナナシも早く来いよ!!」とだけ残して部屋から飛び出して行った。



少年は夢を見た
(気にしすぎかな…)

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