君と春の雨に | ナノ

それは大きくて青い



カサカサと風に揺すられ鳴る葉音を感じつつ俺は気配を抑え川の中に立っていた。
夏の陽射しが照り付ける中、キラキラと光を写す水面を見つながらも神経を研ぎ澄ますようにじっと足から伝わる流れを感じる事数分。

「…!!…そこだっ!!」

カッと目を見開きついて出た掛け声と共に勢い良く水の中へ手を突っ込んだ。狙い通りに指先に触れた獲物を掴みあげれば、まるで何が起こったのか分からないと言いたげに手の中でパクパクと口を動かす魚を手近に置いたカゴに放り込む。

「俺も随分上手くなったよな…」

額の汗を拭いカゴを揺らす丸々太った今日の成果に満足しながら川から上がる。そしてカゴの近くに放られてる魚達を確認すれば、それを自慢する様に頭上をクルクルと飛ぶ鴉の姿に思わず笑った。どうやら友人も好調だったみたいだ。




俺は元々こんな風に素手で魚を捕まえられる程の野性的才能なんか持ち合わせていない、至って普通の男子高校生だった。
なのにいきなり都会から全く知らない場所に居て、助けて貰おうと警察を探してみたけれど人っ子一人も居やしない。コンビニも何も無い山の中で始めて経験する命の危機に何故だか動揺を感じない俺はもしかしたら急な体験に動転してたのかも知れない。

まぁ、何とかなるよと気楽に考えて初めてのサバイバル生活を始めた。

今思うと都会の生活に慣れたままの“前の俺”だったらきっとこの山の中で2ヶ月もの時間を生きていく事なんて出来なかったと思う。
だから、野垂れ死ぬしか選択肢が無い俺を哀れに思ったどこかの神様は嬉しくもない事をしてくれやがりました。





ザクザクと木の枝を刺し込んだ魚を焚火に翳す様にして地面に突き立て終えると両手を伸ばし体を逸らして空を見上げる。雲一つ無いせいか澄んだ青空が高く見える…。物理的に。

違和感を感じたのはここに来た日から1週間後。
視界が低くなった気がしたのはその更に一週間後。
手や足が一回り小さくなってる事に気づいたのはまた更に1週間後。
そして体に起きた異変をようやく理解出来たのは1ヶ月も日が経ってからだった。

170cmは越えていた筈の俺の身長は目測でも150cmあるかないか…多分ある。
だってまさか、身体が縮んでるなんて普通無い。ありえない。
これだけでも相当ショックっだったのに異変は身長だけじゃなかった。
母親譲りの茶色かった髪は墨みたいな黒髪になり、同じ様に色素の薄かった目の色が日本人離れの“金色”に変わった。驚き過ぎて何時間も鏡を見ていた事は記憶に新しい。

そもそもここにいる事自体ありえないんだ今更見た目位なんだ!
許容オーバーした頭がぐるぐると考え出しそになる前に、俺は早々に気にしない事にた。


香ばしい匂いに気づき、ぼんやりしている間にこんがり焼けた魚を2本取ると1本は友人の元に放る。近くの木に留まっていた友人は慣れた様子で焼き魚を啄み、俺も一緒に手にする焦げ付いた魚を食べた。

後片付けをしながら午後はどうしようと考えてると遠くで何かが爆ぜる音や微かな地響きに気付いた。

「また戦なんかしてんのかよ…」

口からため息を零す。
いろいろと歩き回っていた俺が最初に見つけたのは旗を差し刀を持った人達が斬り合ってる真っ最中の合戦場だった。
最初はまさかと思ってはいたけれど2ヶ月近くも住んでれば嫌でも現実として受け入れるしかない。

たとえ今が戦国時代で戦は仕方ないにしろ、ドンパチやるならもっと遠くでやってくれ。おっぱじめた奴らへの愚痴はあるものの平穏な暮らしに慣れていた俺は未だに内心ビクビクだ。

いつの間にか俺の鼻や耳、そして感覚は人並み以上に良くなり以前と比べるまでもなく気配や音にとても敏感になっていた。…サバイバル生活の影響かもしれない。

ここまで人が来たことは無いから安全と思いつつも、用心する事に越した事は無いと俺はさっさと火を消し今日は大人しく家に篭ろうと立ち上がったが、


ドォォオンッ!!!!!!


突然の山頂付近で起こった激しい爆発に反射的に身体をすくませ両手で耳を押さえた。バサバサと音に驚いた獣達が逃げ、友人は高い鳴き声を一つ上げると瞬くまに飛び立っていく。薄情者め…!

不意打ちの爆音にやられ耳鳴りのする俺は顔をしかめる。
何が起きたのか把握出来ないまま音がした方へと顔を向けると煙りの巻き上がる崖上を見上げた。


さっき気付いた戦場はまだここよりも遠かった筈なのに…

舌打ちしたい思いの中爆発によってパラパラと小さく砕けた岩の破片や折れた枝が降ってくるのを手で払い、もっとよく見ようと目を凝らせば今度は破片よりももっと大きな物が崖下に降っていく。いや、堕ちてる?



それは大きくて青い
(…人っぽかったような。)



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