そして静かにおやすみと告げる | ナノ







真っ暗な廊下を、音を立てないように慎重に歩く。何故ってそれは、寝室で寝ている両親や自室で寝ている弟を起こさないように。時刻はとっくに丑三つ時なんて過ぎていて、今起こしてしまったら悪いからだ。後が面倒なのはオレにだってわかる。寝ている人の邪魔をしてはいけない。いつしかそれが普通になっていた。小さい頃なんて何の躊躇いもなく両親を叩き起こしていたのに。今では朝でさえ起こすのに罪悪感が感じられる。毎朝弟を起こす時は、幼い頃が羨ましくなる。よくあんなことが出来たものだ。あの感覚を取り戻してみたくもなる。けれども常識という分厚い壁がそれを阻む訳で、そんなことは出来ないんだと嘆いた所で何かが変わる訳でもなくて。結局はたった今まで考えていたこと全ては無駄に終わる。それでも考える事を止められないのは人間の性だろう。


ぎしり、廊下が軋む。古いんじゃないのか、大丈夫か。一歩一歩確実に歩を進める。自室近くになると軋む音が強まったので、オレ達が何かしてしまったのではないかと不安になるが、思い返してみても特にこれと言って該当するものがなかったので、ただ単に気のせいだと自己完結させる。

そもそも、どうしてオレがこんな夜中に廊下に居るのかと言うと、特に大した理由ではなくて。ただ、外の空気が吸いたかっただけなんだ。そう、それだけ。家の近くも、昼と夜では全く違って見える。その様子が見たかった。眠れなくなったらたまにこうして外に出ることは度々あった。けれども今日はいつもと違って、帰りたくない衝動に刈られていた。コンビニを転々としていたらこんな時間だった。それだけ。特に理由でもない理由だ。言い訳にしか過ぎないけど、こんな時間に帰ったのはこれが初めてだ。だから余計に家族を起こさないようにと慎重にもなる訳でして。何かやましい事もないんだから、隠す必要もないけど、わざわざ言う程の事でもないと思って今までずっと言わないで通して来た。今更知られたらきっと面倒だ。もういっそのこと隠してしまえという感情すら芽生えていた。重要なのは、故意に隠していた訳ではないと言うこと。


半ば開き直って、ぎしぎし鳴らしながら進んだ廊下。自室の前で止まると、ドアノブを静かに回す。扉を引くと少し高めの軋んだ音。静かだと気づく音もあるものだ。いつもだとこんな音、なにひとつ気づかないし気にもしない。

そっと二段ベッドの下を覗く。幸いにも、弟はすぅすぅと寝息を立てて寝ていた。思わず安堵の溜め息が溢れた。良かった。安心したら何だか疲れが波のように押し寄せて来た。そうだ、もう一眠りしよう。大丈夫、まだ時間はある。そう決めて、梯子を上る。オレは二段ベッドの上側だから。
布団を肩までしっかり掛ける。ああ、すぐにでも眠れそうだ。オレは、既に地平線までやって来ている陽に眠りを告げた。

朝はもうすぐだ。








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