あ、またその顔。

俺がかわいいと彼女を褒めるたびに見せる表情。一瞬だけ曇って、何言ってんのなんて少し安堵したように笑うその顔が、俺は好きだなと思う。

名前と出会ったのはこの年代にありがちな、共通の友人の結婚式。珍しく付き合いのある友人だったので、それなりに楽しみに参加した式にておこぼれに与ろうとは全く思っていなかった。
だが割と自分の幸せを探している人は多く、新婦側の席をちらちらと盗み見る同じテーブルの男性陣。よくやるなぁと釣られてテーブルを見た先に彼女が座っていた。
お、あのゲームのヒロインに似てるな、というのが第一印象である。まあ他の男どもは下心丸出しで見てたけど。
俺はその時はそこまで興味を持っていたわけではなく、今夜この中の誰かにお持ち帰りされるんだろうとすぐに視線を逸らして友人代表スピーチに耳を傾けた。



結論から言うと持ち帰ったのは俺でした。

ワロタ。しかもきっかけがまさに似てるキャラが出ているゲームだなんて、今思えば運命だったのでは。そこからトントン拍子であれよという間に付き合って、更に3年が経っていた。



「ねえ、名前」

「…ん?なに?」

甘い余韻に浸りながら腕の中の彼女の髪をすく。

「名前の学生時代ってどうだった?」

「………別に普通だよ」

至ってば突然なんなの。
かなりの間を置いて返ってきた返事。さっきまでひっきりなしに出していたからか、少し声が掠れている。それもかわいいなと思うだなんて、俺はこんな人間だっただろうか。

「んーん、特に理由はないけど」

嘘。理由ならある。

「…そ?変なの」

くすくすと笑う彼女はやっぱりかわいい。いや末期かよ。

名前は自分の過去を話したがらない。その理由ももちろん教えてはくれない。俺も苦い思い出が詰まった過去を持っているので気持ちはわかるし、別に嫌なら嫌でそれを無理に知ろうとは思っていない。ただ、一緒にいる時間が増えていくにつれ、いくつか気になるところが出てきた。
例えばかわいいと褒めた時に素直に喜ばない、だとか。
積み重ねていけばいくほど、段々と隠している理由について自分の中でのおおよその、というかもう確信している1つの仮定が出来上がっていた。


「あー俺も制服デートしたかったなー」

「いやいや、至ならしたことあるでしょ」

「違いますーリアルJKの名前としたかったんですー」

「っ………え、えーと、そっか」

「そーそー。そんで、ちゅープリとか撮っちゃって。黒歴史爆誕!みたいな」

「…それは嫌なんだけど」

心底嫌そうな顔をする目の前の彼女を脳内で少し幼くして、自分の高校の女子制服を着せてみた。
…うん、ヤバいわ萌える。

「今度制服プレイね」

「…言うと思った!絶対嫌!!」

もう寝て!
顔を赤くして俺の目を手で塞いでくる名前。“このまま”幼いのであれば本当にかわいいはずだが、きっとそうじゃないんだろう。



その少し硬くて尖り気味の鼻先とか。メイクを落としても左右対称に綺麗にある涙袋とか。細いくせに主張の激しい胸とか。あと定期的にこそこそと行ってる病院だとか。


ヒントを上げればキリがない。俺だって馬鹿じゃないんだから。ていうか気付く人は気付くと思うし。
でもそれを嫌かどうか聞かれれば答えはノー。いくら最近多いとは言っても、まだまだ世間ではあまりいい顔をされない文化。抵抗を感じる人の方がはるかに多い。
が、俺的にはむしろかわいい彼女なんて万歳だし、自分のためにかわいくあろうと努力してくれてるとか健気過ぎて、最早愛しい。これが恋ってやつか。


「…好きだよ」


うとうととし始めた名前に心からの言葉が溢れでた。寝かけててもきちんとこの声は聞こえたらしい。
いつもいつもかわいいけれど、その中でも1番かわいい顔で私もと伝えてくれる君を、俺はきっと手放せない。