私の朝はすこぶる忙しい。起きて自分の身支度を終えた後は、幼馴染の面倒もみなければならないからだ。

「起きて!朝!」

あいさつもそこそこに入った隣の家の、2階奥に位置する部屋。その中のベッド上にあるでかい布団の山をバサッと捲れば、うめき声をあげるこれまたでかい男の姿。

「………うるせェよ」

「はいはいうるさいねー!じゃあさっさと起きなさい!」

舌打ちで返事をする幼馴染は揺さぶっても全く動かない。毎朝のことではあるが本当にムカつく。

「全く…誕生日だからって私は甘やかさないんだから!!」

「…………あ?」

誕生日?
寝起きのひどく掠れた声。聞き慣れているはずなのに、無駄にいい声なので不意にどきりとする。

「そ、そうよ!今日は10月6日です!あなたのお誕生日よ、トラファルガーロー!おめでとう!」

「…ああ…オヤスミ」

「だっ…から、起きろってば!!」

最後にスパーンと布団を引っ張って床に落とす。いてェと視線だけで殺せそうなくらい鋭い目で私を見てくるが、そんなのはもう慣れっこだ。むしろこっちが睨む立場なのではとすら思う。

「おばさんが下でご飯準備してるの。私も一緒にいただくんだから、起きて降りてきて!」

そう言って早く行けと尻を叩く。
こんなこと今どき幼稚園児にだってしないだろう。


そんなこんなでやっと動き始めたローを洗面所に押し込むことに成功。ぶちぶち文句を垂れながら顔を洗う姿が笑える。こんなんでも見た目が良いのでモテてしまうのだから、全く女とはチョロいものだ。

「…みんなに幻滅されちゃえ」

そして、そんなチョロい女の枠に自分も入っていることがまた悔しくもある。
幼馴染としてずっと隣にいれればいい、だなんて純な気持ちはだいぶ前に消え去った。この燻る気持ちを自覚してからというもの、ありとあらゆるアプローチをかけてはみたものの、全く手応えを感じられず。その反応のなさにこいつは本当に男なのか?と逆ギレしそうになったこともある。というか何度もした。けど、それも今日まで。
実力行使でこの関係を終わらせると腹を括ったのは昨夜だ。




「名前、飯食って行くんだろ。遅刻すんぞ」

顔を洗って目が覚めたらしいローの声。

「って、それローにだけは言われたくない…!!」