夕立とバス停



高専に戻るようなカタチで3件の任務を片付け、冬に比べて陽の高い道を憂太と2人で歩いた。
補助監督は急に別の仕事が入ったのと、もう高専近くだからということで急いで私たちを降ろして、車が真逆の方向に進んでいったのがつい先程だ。

数m先は陽炎で景色が歪んでいる。
2人でぽつぽつ話をしながら汗を腕で拭う。深い溜息をつきつつ歩いていると、
ふと、匂いが鼻をくすぐった。
雨の匂い。
それを憂太に言おうと、隣を振り向いた瞬間。やられてしまった。
ゲリラ豪雨にも近い夕立が激しく私たちの身体を叩く。
あちゃーと思いながら天を仰ぐと、憂太の手が力強く私の腕を引いた。


辿り着いたのは高専から離れてはいるものの、最寄りのバス停。
トタン屋根のバス停に響く雨音は激しい。

「あ、ご、ごめんね!急に腕引っ張っちゃって!痛くない!?」
「全然平気ーありがと」

あわあわと慌て出す憂太を宥めて、2人してびしょびしょの制服のままベンチに腰掛ける。座った瞬間の、ぐしょ、という音がどれだけ濡れたのかよく分からせてくれる。

「このままだと風邪ひきそうだね……」
「服を脱げと?」
「え!いや!そ、そうじゃなくて!!」

ただ風邪をひかないにはどうしようかな!って!!と必死に言う憂太に笑って、私は制服の上を脱いだ。
しっかりした生地のお陰で下のシャツはあまり濡れていない。主に濡れているのが下半身というのがまた更に気持ち悪い。
トタン屋根に跳ねる雨音に耳を傾けていると、ふんわりと温かい何かが私の肩に掛かる。

「あ、それ僕の替えの服。まだ着てないから大丈夫だよ。女の子が冷えると良くないし、着てて」

成程、誑しね。
私はびしょびしょの上着を脱いでいる憂太にお礼を言って、借りた服に袖を通した。
温かいし、いい匂いがする。
後で使ってる柔軟剤を聞こう。

蒸し暑いような、しかし身体の表面が冷えるようなバス停に2人きり。
ちらりと横を見ると憂太は髪の水気を適当に払っているところだった。
薄着の憂太は細身にも関わらずしなやかな筋肉がついていて、等級の高さを思わせた。
思わず鼓動が跳ねて視線をさまよわせたが、
それでも光る左手薬指の指輪。
外されることのないそれ。

「ねぇ、憂太」
「なに?」
「指輪も貸してみせてよ」

少し驚いた顔を見せた憂太だったが、
すぐに目を伏せて、顔をゆっくり左右に振った。
なんとも言わない憂太に、私は、
雨、凄いね。とだけ呟いた。

雨は暫く止みそうにない。




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