畳と扇風機
任務後、依頼人に通されたのは古い和室だった。どうやら補助監督と話があるらしい。
私と恵は依頼人の消えた古い和室に即座に寝そべった。
任務が激務だったわけではない。
ただ恵と私の声が重なった。
「「あっつ」」
チラリと窓の方を見ると、随分と年季の入った扇風機。
恵が動くのか、アレ。なんて言うけれど、
フローリングと違って熱を孕んだ畳にいつまでも寝転んでいるわけにもいかない。私はずりずりと汗まみれの身体を引き摺って扇風機のスイッチを入れた。
古いキーボードみたいに無駄に大きいスイッチを押す。日焼けた青い羽は数秒遅れてガタガタと音を立てて動き出した。
「動くわ、瀕死だけど」
「瀕死だな」
いつの間にか隣に来ていた恵と風を共有するが、恵が舌打ちするのは早かった。
理由も気持ちもよく分かった。
「来んの熱風じゃねぇか……」
ギラギラと日光が照らす空気は酷く熱い。
それな、とだけ言って私は扇風機の熱風がギリギリ当たる位置で寝転んだ。
先日野薔薇に、暑いって言うから暑いのよ!と言われたのを思い出す。それに賛同していた恵が暑い暑いという今日は余程の猛暑なのである。
「恵も横になれば?多少空気は冷たくなるはず」
「畳熱くねぇか」
「心頭滅却しな」
恵は暫く無言で扇風機を見つめた後、私のすぐ横に寝転んだ。
蝉の鳴き声が熱風と一緒に室内に運ばれてくるのを2人して天井を見ながら感じていた。
あまりに無言が続くものだから、私がしりとりしようよ、と言っても無反応。
無視は酷いぞ、と横を見ると垂れていく汗。
畳にベッタリと顔をつけて眠る恵がいた。
顔に張り付いている髪をどけてやると漏れる声。
きっと起きる頃には畳の跡が残ってるんだろうなーと思いながら、私も目を閉じた。
恵と私の距離は数cm。
ガタガタと震える扇風機は動き続けている。
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