君と夢うつつ




遮光カーテンの隙間から差し込む光が瞼を焼く。瞼を突き破った光は視神経にまで届いて、その不快感に目を覚ました。

天気が良いのだろう。
雀の高い啄むような鳴き声がする。
右手で思わず顔を覆った。携帯のアラームが鳴っていないことを考えると、まだいつもより朝早い時間だということだ。

布団の膨らみは2つ。私の身体と彼女の分。
私の左手を両手で掴むような姿勢で彼女が寝ている。白い肌に伸びた黒い睫毛は動かない。お互い昨日の任務が尾を引いているのを感じざるを得ない。

人手が足りないとはいえ、夜の呼び出しはこの歳になっては御免こうむりたい。
夕食をとり、皿を洗い、風呂に入り、歯を磨いてベッドに2人で潜り込む。2人きりの特注ベッドは私にとって最重要な憩いの空間だ。

彼女の顔にかかる髪を1束掬って耳にかける。乱れた髪に指先が触れるだけで、ストレスで上昇した心拍数が落ち着き始める。
私にとって目の前の小ぶりな彼女は無くてはならない存在だ。
人間ならば、誰だって何かしらの大事なものや譲れないものはある。
それが私にとっての彼女だった。



高専2年の春に転入してきたかなたは少し毛色の違う女の子だった。
落ち着いた雰囲気の硝子と違って、走って飛び跳ねてよく食べてよく笑う子だった。
細かいことをあまり気にしない。
全てに無頓着なようでいて、人一倍人の気持ちに敏感。それが彼女の特徴だった。

「夏油、嫌いなら嫌いでいいんじゃない」

そう言った彼女は真顔だった。
その時の私はただ、今年の夏は暑いとか、夏休みは人が増えて何処もかしくも暑苦しいとしか言っていなかった気がする。
彼女のくりくりとした茶褐色の瞳は日差しを受けて、どこまでも貫く光線のような力強い光を反射させていた。

きっとごまかせた。
当時彼女は私にそこまで詳しい訳ではなかったはずだし、私自身嘘を吐くのは苦手ではない。それでも彼女と立っていた廊下のど真ん中で私は座り込んで、揺らぎ始めるものの霞を話した。
理解出来たかどうかというのは意外と関係なかった。
それは彼女が意外と相槌を打つのが上手く、寄り添うことが上手かったからだ。

それから私は彼女に寄りかかって生きるような人生を歩んできた。


そういえば、先に目が覚めた方がコーヒーを淹れるというのが私たちのルールだ。

かなたを起こさないようにそっとベッドを降りる。膨らみは動かない。
彼女の頬の曲線にキスをするのが好きだ。
音を立てて彼女にキスをしてから、部屋に備え付けの小さなキッチンに立つ。

一時凝り性がたたって豆を挽いていたことがある。結局それは年に数回使う程度でキッチンの上の戸棚に仕舞われている。
朝食のことも考えつつケトルに水を入れて電源をつけた。カチッと鳴る音は静かな空間では妙に大きく聞こえる。
布団からはみ出る彼女の寝顔を確認してから
お揃いのマグカップを用意した。
黄色が私で、赤が彼女のものだ。
シンプルなデザインながら、持ちやすくて熱いものを入れても表面が熱くなりすぎないのを彼女は気に入っている。

私より少し濃いめが好きな彼女のマグにインスタントコーヒーを少し多めに入れた。
小さじ2分の1程度の差は彼女のこだわりだ。
ゴボゴボと主張し始めるお湯。
丁度5秒前を予想して5秒のカウントをすることが癖だ。

5、4、3、

───────ピンポーン

カチッとケトルが鳴った。
カウントの途中で鳴ったインターホンに身に覚えはない。そもそも今は早朝だ。

これ以上インターホンが鳴らされないうちに玄関へ向かう。
こういうタイミングが悪い時に来るのは大体誰か検討はつく。

「……なんだい、悟。こんな時間に。私に会いに来たのかい?この寂しん坊め」

そう茶化したが、悟の顔は想像に反して険しかった。遠くでケトルのお湯がゴボゴボと鳴っている。

「かなたの死体、どうしたんだよ傑」

私が返答をする前に悟が土足で部屋に上がり込む。

やめろよ。

その声が出る前に奥へ進もうとする悟の肩を掴んだ。
険しい顔の悟越しに見えたかなたの顔には大きな蝿が止まっていた。


あーあ。







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