ピアスホール



見てて暑い、と私の髪を上げたのは五条だった。
確かに背中の半分まで伸びた髪を下ろしていたら、この7月には暑く見えるだろう。
私は右ポケットに入れていたシュシュを五条に渡すと五条は綺麗に私の髪をポニーテールにした。

これはこれで蒸れるんだよな、と思っていたらガシッと力強く大きな手が私の肩を掴む。
え、なに?と聞いても背後の五条は答えない。暫くそうしていると、五条の呟きがぽつりと。

「ピアス、傑より多くね?」

夏油より、と言っても夏油は2つしか開けていないのだから、夏油のピアスホールは最低限と言える。
でも確かに普段は髪で隠していたし、誰かにホールが幾つだの言ったことはなかったことに気付いた。
まじまじと私の耳を見る五条の顔が近くて、吐息が擽ったいし、あつい。

「たった5個だよ」
「いや、開けすぎだろ」
「そんなことないですぅ」
「不良じゃん。こわ」

いや、私たちのクラスみんなガラ悪いですよ?と言ったが、五条は私の肩を離さない。
そんなに興味があるんだろうか。
私のピアスをつんつんと触る五条。

「五条、ピアスホール開ける?」


そう言い出したのは私で、
開ける、と即答したのは五条だった。



報告書も程々に、ドンキに行ってピアッサーを選ぶことにした。
どうせ五条だし、拡張なんてしないだろうし、ファッションピアスが通れば充分だろう、とピアッサーを見た。

「なぁ、ファーストピアスってなに」
「あー穴開けるじゃん。で、穴が安定するまで付けとくやつ」

ふーん、とだけ言ってドンキのカオス空間に消えていく190cm越え。
ファーストピアスにこだわりは無さそうだな、と思って私の手は止まった。
暫く考え込んだが、遠くから私の名前を呼ぶ五条の声でハッとしてピアッサーを手に取った。

「なに」
「え、お前が着いてこないからじゃん」
「あんたの為にピアッサー見てたんですけどね??」

あちこち行こうと動き回る五条の服の裾を掴んで、アルコールの染み込んだコットンも持ってレジに並んだ。


寮に戻って、五条の部屋に直行。
五条が早く開けようぜ、と私を焦らせたからだ。別にいいけど。
共同冷蔵庫から保冷剤を幾つか拝借する。

保冷剤、アルコールの染みたコットン、ピアッサー、ペン、手鏡。

まぁこんなもんだろうと準備していく私を五条は楽しげに見つめていた。そんなに親友と同じようになるのが嬉しいのか。
相変わらず大好きだねぇ……と半分呆れつつ、私は道具を持って五条の隣に五条を向く形で座り込んだ。私に向き直ろうとする五条の首を掴んで無理矢理前を向かせる。
いで!という声はまぁ、無視でいいだろう。

手鏡とペンを五条に渡す。

「開けたいとこに印して。ちょん、でいいから」

五条は手鏡を覗き込みながら、器用に左右対称に印を付けた。割と私は初めて開けた時、左右非対称になってしまったので、無駄に器用な五条にデコピンしたのだった。

その後、私の指示のまま保冷剤で耳を挟んで、感覚が鈍くなるまで冷やさせる。冷たくて逆に痛くね?と五条は文句を言ったが、適当に頭を撫でてやると大人しくなるから、多少の可愛げがある。

「どうよ」
「感覚ねぇわ」
「よっしゃ、開けるか」

アルコールで耳を消毒してから、
ピアッサーを開けて、ルビーの付いたそれを五条の耳にあてがった。
キンキンに冷えた五条の耳に私の指が触れると、熱いわ、ところころ五条が笑う。

「動かないでよ、ズレる」
「えー」
「お前のピアスだぞ」
「んー、じゃあさキスしてくれたら大人しくするわ」


私の角度からだと五条の表情は伺えない。
何を考えているのか分からないが、ピタリと動きが止まった五条の耳元でカシャン、と音がした。


やれ酷いだの、卑怯だのと五条が喚く。
あーはいはい、と流しながら私は道具を持って五条の反対側に座った。
さっきと同じように保冷剤を五条に渡したが、完全に気分を損ねたらしい。
全く言うことをきかない上に、ベッドでふて寝を始めようとする。

かと言って、付き合ってるわけでも、好き合ってる訳でも無い男女がピアスホールの為にキスする理由が私には分からなかった。

保冷剤は熱を帯びて、溶けていく。
私は深く溜息をついて、仕方なく両手を上げた。

「わかった、キスでも何でもするから早く来て。保冷剤溶ける」


あ、起き上がった。

未だに唇を尖らせた五条がのっそりと降りてきて、私の横に腰をおろした。
さっきのような抵抗はない。
保冷剤も大人しく受け取り、耳を冷やした。

ピアッサーと光るルビーに私は頭が痛くなる感覚がした。


カシャン、今度は何の抵抗もしなかった五条の耳にルビーが光る。瞳の青と交わらないルビーの色。


「なぁ」
「なに」
「ファーストピアスってさ、大体自分の誕生石付けるんだろ?」
「人によるんじゃない」
「だろうけどさ。俺の誕生石ラピスラズリとかなんだよね」
「だから?」
「何でルビー?」


手がピタリ、と止まった。
五条の誕生石がラピスラズリなのは知っていた。ルビーは、7月の石だ。


「もしかして、明日がお前の誕生日だから、っての関係ある?」


確信してニヤつくくらいなら、わざわざ聞くなよ。と、私は言う代わりに五条の唇に自分の唇を合わせた。




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