墓参り




何かある。
そう、虎杖悠仁は踏んでいた。
珍しい休日に同級生である伏黒恵と釘崎野薔薇の3人で出掛けた際である。
釘崎が食べたいと暴れたパフェを3人で食べた後、店の窓から見覚えのある人物を見掛けた。特級呪術師である2人だった。

1人は五条悟、自分たちの担任教師だ。
もう1人は……名前は何だったか。
以前五条先生と歩いているのを見たことはあったが、任務を共にしたことはないし、紹介されたこともない。知っているのは数少ない特級呪術師だということのみ。
しかし伏黒は何か知っているのではないか。そう思い2人に声を掛けた。

「なーなー、伏黒!五条先生見っけた」
「んー?あら、本当ね」
「……珍しいな」

3人で窓の外に視線を移す。
伏黒は俺が言いたいことを分かったように、隣の人は五条先生の同級生だよ。と俺に教えてくれた。

「んー、何か親しげじゃね?」
「そりゃ同級生だからだろ」
「いや、そうじゃなくてさ」
「……何が言いてえんだよ」
「鈍いわねー伏黒!虎杖が言いたいのはこうでしょ!」

ずばり、あの人五条先生の彼女じゃない?

「……で、何でこうなるんだよ……」

分かれよ。そう伏黒に釘崎と視線をよこす。
端的に言えば俺たちは好奇心が抑えられず、尾行することにしたのだ。
雑踏の中でも五条先生は目立つ。
特に今日はいつもの目隠しではなく、ラフなサングラスだった。
時折女性たちの黄色い声が上がっている。
イケメンってすげー。
人混みに揉まれながらも距離を保ちながら後ろをついて行く。
すると尚更2人の距離が気になった。
寄り添うように歩く2人はやはりただの同級生には見えがたい。しかし、だからと言って手を繋いでいるだとか腕を組んでいるとかではない。近くにいるのに、どこか一線引いているようにも見えた。

「どこ行くのかしら」

ま、まさかホテルとかではないわよね!?と釘崎が動揺する。
いや、有り得ない話ではない。
え、どうする?と3人で目を合わせた。
流石に担任の先生の性事情は知りたくない。いや、興味がないわけではないけど。
やめよう。そう言ったのは伏黒だった。しかし意外にも先生たちが入っていったのはホテルではなかった。
……花屋。俺たち3人の声が重なった。

「え、先生って恋人に花贈るタイプ?」
「想像したくねえ」
「でも彼女と入るか?」
「微妙な線ね……」

1度おさまりかけた好奇心がむくむくと膨れ出す。え、もしプロポーズとかだったらどうしよう。
……ホテル入るとこ見るよりはいいか。
3人で壁に寄りながら、ちらちらと店内に視線を向ける。2人で花選びをしている。2人が手に取った花で、2人の目的が分かった。

仏花だった。


やめましょ。そう言ったのは釘崎だった。
俺はそれに頷いた。
俺たちの野暮な想像とは違うものだったからだ。
成程、道理で2人は寄り添っていたわけだ。じいちゃんが死んだ時、俺に寄り添ってくれる人はいなかったけど、でももし誰かいたのだとしたらあんな風に身を寄せ合っていただろう。
近しい人が死んだ時、人はその孤独感と、同時にそれでも回っていくこの世界にどうしようもない寂しさを感じるものだ。

しかし意外にもそれに頷かなかったのは伏黒だった。
花を買って店を出てくる2人を凝視している。呪術師トップである特級2人が揃って花を手向ける人物とは誰なのか。そこに興味が向いたのかもしれない。
お前らは帰れよ。
そう言って伏黒は歩き出した。
釘崎と目を合わせる。
あんたが行くならついて行ってやってもいいわ。いや、何でそんな上から目線なん?と話し合ってはみたが、結局2人で伏黒を追い掛けた。
前方の2人は大事そうに花を抱えて歩いている。少しずつ人気が減っていく道を真っ直ぐに進んでいく。
まずい。
これ以上人が減ると自分たちを隠す隠れ蓑が無くなる。まあ、バレても怒られないとは思うけど。

人が減り、木が増えていく。照っていた陽の光は少しずつ影を落とし、やがて綺麗な公園のような墓地に着いた。
鳥の囀りが聞こえる。
ぽつん、とある墓石のような石の前に2人が花を置いた。
と、思った瞬間だった。
俺たちの肩を誰かが叩いた。
勢いよく振り向くとそこに居たのは、追いかけていた筈の2人だった。

「なーにしてんの?」

五条先生は至ってにこやかだ。
隣の女性も笑っている。
一体いつからバレていたんだろう。
もしかしたら最初からかもしれない。

「あーいや、先生これにはちーっと訳が」
「そ、そう!これには深い訳がね?」

ため息を吐いた伏黒に釘崎があんた何か言いなさいよ!とキレる。そんな俺たちに2人は笑みを深めた。

「……夏油傑ですか」

伏黒は小さく言った。俯いた伏黒の頭の上に先生の大きな手が乗る。
きっとそれは肯定だった。
女性の方はと言うと表情に変化はない。
柔らかい、優しげな女性だ。でもあまり目が笑っていなくて、少し怖く感じた。
その後五条先生に背中を押されて墓石に近付く。決して立派とは言えないそのただの大きな石のような墓石。
女性はふらりとどこかに行ってしまった。

「いやー僕の親友のお墓なんだけどね?あいつ馬鹿だからさ、多少煩い方が良いかと思って」

で、俺たちの尾行に乗ってくれていた、と。
でも君たち尾行下手だねー!とケラケラ先生が笑う。
俺たちが言葉に詰まっているといつの間に持っていたのか、コンビニの袋を差し出してきた。
食べな、と差し出された袋の中身はおにぎりだった。狗巻先輩を思い出しながらそれを受け取る。
先生はまたこれいつの間にか持っていたおにぎりを既に齧っている。おい、と後ろから声を掛けられた。

「悟、掃除が先でしょ」
「えー、僕じゃなくてもお前やるでしょ?」
「あ、君たちは食べてていいよ」
「え、息するように無視するじゃん」

女性は持ってきた手桶と柄杓を使って墓石に水を掛ける。
その後持ってきたであろう雑巾で墓石を拭き始めた。
先生はそれを見ながらおにぎりをぺろりと平らげた。
俺たちはと言うとおにぎりの具を巡って喧嘩が始まりそうだったのだが、空気を読んで程々に大人しくする。
女性が小さくよし、と呟いて立ち上がる。
汚れていた墓石は少し綺麗になっていて、じいちゃんの墓参りにも暫く行っていないことに気付いた。
先生が軽く屈んでお線香に火をつけて風よけを被せる。直後に大きく風が吹いて、舞った葉っぱがお墓にかかった。先生はその様子を口角を上げたまま見詰めていた。
背の高い先生の表情はそれしか分からなかった。

「レジャーシートとか持ってくるべきだったかな」
「いいねー次はそうしよう!」

2人が話す。夏油傑。俺はその人をよく知らないけど、明るい声音で話すこの2人が。2人の目が笑っていることを願いながら梅干しの入ったおにぎりを齧った。




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